新型コロナウイルス感染症とは2019年12月に中国で報告され、以後世界に感染が拡大しているウイルスによる感染症で、日本でも感染者数、死亡者数共に増加傾向にあります。日本医師会では、2020年4月1日に新型コロナウイルスによる“医療危機的状況宣言”を行いました。医療の現場では、現在どのようなことが起こっているのでしょうか。
今回は、日本医師会 常任理事 釜萢 敏先生より、新型コロナウイルス感染症による医療機関の現状や今後の影響などについてお話しいただきました。
※本記事は2020年4月14日時点の医師個人の知見に基づくものです。
今後患者数がさらに増加すると、医療崩壊が生じるのではないかという懸念があります。医療崩壊とは、医療を必要とする人の数が実際に提供できる医療の量を上回り、必要とする全ての人に医療が行き渡らなくなる状態のことです。
その点で、目下大きな問題となるのは“集中治療”に関する医療崩壊です。日本集中治療医学会によれば、集中治療とは「生命の危機にある重症患者さんを、24時間の濃密な観察のもとに、先端医療技術を駆使して集中的に治療するもの」と定義しています。新型コロナウイルス感染症にかかり重症化すると、生命の危機に瀕し集中治療が必要となる患者もいます。日本の集中治療は技術水準が高い一方、受け入れられる容量がそれほど多いわけではありません。そのため、このまま新型コロナウイルス感染症の患者が増えると、集中治療のキャパシティを超える数の重症患者が発生し、集中治療が行き渡らなくなるために、元来なら助けられる命が救えなくなる可能性があるのです。
現在、集中治療のキャパシティを増やすため、各地域で病床数を増やすなどの対策が取られていますが、それにも限界があります。特に、人手不足の問題を早急に解決することは難しいといえるでしょう。集中治療を機能させるには、トレーニングを積み、専門性に優れた多くの医療従事者が必要です。たとえば、体外式膜型人工肺(ECMO)を1台稼働させるためには10人の医療スタッフが必要といわれています。
また、日本の医療機関でも、すでに新型コロナウイルスの院内感染が広がりつつあります。これには、医療従事者が院内で感染し広がるケースもあれば、病院の外で感染し、院内に持ち込んでしまうケースもあります。
院内感染が広がり、多数の医療従事者が新型コロナウイルス感染症にかかると、地域で大きな役割を果たしていた医療機関が機能できなくなり、提供できる医療が減ってしまいます。
東京・大阪・愛知・福岡などの大都市や、千葉・神奈川・埼玉・兵庫・京都など、その周辺の地域で大規模な感染拡大が起こることが懸念されます。日本では、すでに感染経路の分からない患者が増えてきており、見えない感染拡大が広がっています。そのため、人口が多く人の往来がある都市部や、その周辺の地域において特に感染のリスクが高いと考えられます。
流行のスピードに関しては、私たちも注視しているところです。2020年4月1日に厚生労働省・新型コロナウイルス対策専門家会議より発表された“新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言”によれば、オーバーシュート(爆発的な患者数の増加)の基準は、累計患者数が2〜3日で倍増することを指しています。東京都も日を追うごとに感染者数が増加していますが、まだこの基準を満たすほどではないため、現段階ではオーバーシュートとはいえません。ただし、近日中にオーバーシュートとなる可能性は否定できません。
多くの人が外出を控えることにより、感染拡大を予防できると考えます。実際、学校が休校になるなど緊張感がはしった3月前半は、不要な外出を避ける人も多く、感染者数の増加は抑えられていました。しかし、北海道の感染者数が減少したことなどにより安心感が増したのか、特に3月21〜22日の土曜・日曜日は天気もよく、外出する人が増えました。新型コロナウイルスは1〜14日程度の潜伏期間があるといわれていますから、3月末〜4月上旬にかけて感染者が大きく増えてしまったのは、3月21〜22日ごろに外出する人が多かったためではないかと考えられます。
現在は、各都道府県の知事からのメッセージなどにより、再び外出を控える人が増えてきました。企業でも、本格的にテレワークを取り入れる姿勢が見受けられます。このような取り組みによって、今後の感染者数がどのように変化するか、注視しています。
新型コロナウイルスに関しては、まだ分かっていないことも多く、今後予測されない症状が出る可能性も考えられます。一般の方は厚生労働省のウェブサイトなどを利用し、適宜正しい情報を取り入れるとよいでしょう。
新型コロナウイルス感染症は、全年代でかかる可能性のある病気であると認識してください。この病気が報告された当初は、子どもや若者は重症化しにくく、高齢者が重症化するケースが多いという報道がありました。しかし、実際には中国や日本の感染者の事例を見る限り、子どもや40歳代以下の比較的若い方でも感染し、重症化します。たしかに、重症化する確率は子どもや若者よりも高齢の方のほうが高いといえます。しかし、1歳未満の乳児で重症化した例や、10歳代で急速に重症化しすぐに人工呼吸器が必要となった例もあり、子どもだから、若いから感染しても大丈夫ということはありません。
感染者数の増加とともに、感染経路を掴むことが難しくなっています。そのうえ、新型コロナウイルスでは、感染しても症状が現れない不顕性感染や、症状が軽く新型コロナウイルス感染症にかかっていることに気が付かないこともあります。つまり、症状がないというだけで、あなたや周囲の身近な人が新型コロナウイルスに感染している可能性があります。
今後の予防対策では、自分が新型コロナウイルスに感染しないよう、手洗いの徹底など一般的な感染症予防をしっかり行うことはもちろん、「自分も新型コロナウイルスに感染しているかもしれない」という意識を持ち、人にうつさない工夫をすることが必要です。具体的には、外出時のマスクの着用、体調が悪いときは外出を控えることなどが挙げられるでしょう。
上記でも述べているように、新型コロナウイルスでは症状がなくとも、誰しもが感染している可能性があるということを踏まえて、診察時にはサージカルマスクの着用と手指衛生の励行である標準予防対策を徹底します。さらに、接触感染や飛沫感染の予防対策を行います。標準予防対策に加えて特殊なマスクや眼の防護具、長袖のガウンおよび手袋などを装着します。
診察や入院については、個室が望ましいとされ、陰圧室(空気感染防止のための特殊な病室)である必要はないとされていますが、十分な換気を徹底して行います。
なお、医療機関の職員は、毎日の検温を欠かさず行い、徹底した健康管理を実施しています。
新型コロナウイルスの検査では、PCR法という手法が行われています。PCR法とは、ウイルスの遺伝子を増幅させて調べる検査で、検査結果が出るまでに2〜3時間かかります。この検査方法には二つの課題があると考えます。
一つ目は、検査結果が陰性であっても感染が完全に否定されるわけではないことです。そのため、検査が陰性であっても、重症化や感染拡大の観点から経過観察を怠ることはできません。また、同様に検査結果が陽性であっても感染していなかったケースが報告されています。
二つ目は、検体の採取・搬送の際に感染が拡大するリスクがあることです。まず、医療従事者が患者から検体を採取するときは感染リスクが高まるため、医療従事者は個人防護具を着用するなどの感染予防対策が必要です。次に、検体を搬送する際にも感染拡大のリスクが生じるため、検体を厳重に管理できる専門の業者への依頼が必要です。しかし、現在は医療従事者の身を守る個人防護具が足りないほか、検体を管理できる搬送業者も限られているため、なかなか検査の数を増やせないという現状があります。日本医師会でも、検査数を増やせるよう取り組みを行っています。
2020年4月7日には7都道府県を対象に緊急事態宣言が発せられました。ここでご注意いただきたいのは、日本における緊急事態宣言はロックダウンとはまったく異なるものだということです。海外で行われているロックダウン(都市封鎖)は、人の動きを完全に止めてしまう措置です。具体的には、公共の交通手段を完全に止め、お店も食料など生活必需品を取り扱う以外は営業できません。国によっては、決められた範囲を超えた移動をすると罰則が生じることもあります。
一方、日本では仮に緊急事態宣言が発せられても、人の動きが完全に止められてしまうことはありません。もちろん、これまで通り感染拡大予防のために外出を控える必要はありますが、緊急事態宣言によって仕事ができなくなったり、公共の交通機関が完全に止まってしまったりすることはありません。物流が止まり、食料など生活必需品が買えなくなる心配もないので、慌ててお店に殺到するようなことは控えてください。
集中治療の医療崩壊を防ぎ、多くの人の命を救うためには、国民一人ひとりが感染症予防を徹底し、感染者数を抑え込むことが肝要です。今のところ、新型コロナウイルスに感染した人のうち、一定の割合で重症者が出てしまうことは避けられません。感染者の数が増えれば、その分だけ重症者数も増加することが懸念されます。とはいえ、前述の通り、集中治療のキャパシティを増やすには限度があります。そのため、国民全員が新型コロナウイルスに感染しないよう心がけることが大切です。
日本医師会では、2020年4月1日に“医療危機的状況宣言”を行い、そのうえで国に対し特に首都圏を対象とした取り組みの強化を要望しました。今後も私たちは引き続き、PCR法の検査数を増やす取り組みや、スマートフォン・タブレットを活用したオンライン診療の検討など、医療提供体制を維持し、医療従事者が全力で取り組むことができるような体制の構築に尽力してまいります。
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