従来の新型コロナウイルス感染症の検査では、鼻から細い器具を挿入し、鼻咽頭ぬぐい液を採取して検査を行うことが一般的でした。しかし、最近では唾液から検査を行うことが可能となり、より手軽で安全に検査を受けられるようになってきました。また、検査方法も従来のPCR検査に加え、LAMP法・抗原検査などが登場し、検査体制が大きく変革してきています。
今回は新型コロナウイルス感染症の唾液検査について研究し、実用化に向けて大きく貢献された北海道大学医学研究院 血液内科学教室 教授であり、北海道大学病院 検査・輸血部長の豊嶋 崇徳先生に、唾液検査の特徴や現在行われている新型コロナウイルス感染症の検査の種類、使い分けなどについてお話しいただきました。
新型コロナウイルス感染症を検査するために使われる検体には主に、鼻咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、唾液、痰があります。ここでいう唾液検査とは、唾液を検体とした検査のことをいいます。新型コロナウイルス感染症の流行当初は、喀痰や、鼻咽頭ぬぐい液と指定されていました。しかし、現在は唾液の検体に対する有用性について明らかとなり、そのメリットからも唾液検査が用いられることが一般的となりました。
唾液を検体とすることによって、患者さんが自分で検体を採取できるようになり、検体採取者が不要になったことは大きなメリットだと思います。鼻咽頭ぬぐい液を検体とする場合、検体採取者が患者さんの鼻からスワブと呼ばれる綿棒のような器具を入れて検体を採取する必要があります。そのため、採取時に患者さんから咳やくしゃみが出やすく、検体採取者の感染リスクが高いので厳重な防護服が必要な状態でした。
唾液を採取する場合、鼻からスワブを入れる必要もなく、検体を採取する際に咳やくしゃみが出る心配がないため、検体を採取する際の周囲の人への感染リスクも軽減したといえるでしょう。また、唾液の採取は自宅でも可能であるため、空港や多数の会社でも活用されています。
このように唾液検査の有用性が示されたことで、どこにも行かずに診断が受けられる時代になりました。
当院が行った国際空港検査・ドライブスルー検査による唾液・鼻咽頭ぬぐい液の比較研究によれば、唾液を検体とする新型コロナウイルス感染症の検査は、鼻咽頭ぬぐい液を検体とする検査と比較して精度はほぼ同等です。また特異度やウイルス量は唾液のほうがより安全に検体を採取できることからも、唾液を使用した検査への注目が一気に高まりました。
唾液を検体とした場合、重症度によって検出されるウイルスの量が異なることも分かってきています。鼻咽頭ぬぐい液では重症度によるウイルス量の差は認められていないので、これは唾液検査特有のメリットといえるでしょう。この特徴を生かし、ウイルス量に応じて予後をある程度予測できる可能性も報告されています。
デメリットとしては、唾液を検体とした新型コロナウイルス感染症の検査のほうが検査技師の行う工程が1つ増えることが挙げられます。ただし、鼻咽頭ぬぐい液を採取することによる検体採取者の感染リスクを鑑みれば、工程が増えても唾液を検体としたほうがリスクが少ないと考えることができます。
現在唾液を検体として行われている新型コロナウイルス感染症の検査方法としては、いわゆるPCR検査などの“核酸検出検査”と“抗原検査”の2種類があります。以下では、それぞれの検査について簡単にご説明します。
核酸検出検査とは、ウイルス遺伝子(核酸)が検体中に存在しているかどうかを確認する検査方法です。この検査方法では核酸を増幅する工程が必要ですが、その増幅方法として従来から行われてきたPCR法(リアルタイムPCR)と、2000年代初頭に流行したSARS・MERS対策として認可されたLAMP法の2種類が用いられています。
抗原検査とは、新型コロナウイルスの構成成分となっているたんぱく質を検出する検査方法です。抗原検査にも抗原定性検査と抗原定量検査の2種類があり、新型コロナウイルス感染症の検査としてどちらも活用されています。ただし、抗原定量検査のほうがより感度が高く、ウイルス抗原の量も測定できるなど新型コロナウイルス感染症の検査として優れていることが分かっています。
抗原検査は核酸検出検査よりもスピーディーに結果が出ますが、新型コロナウイルス感染症の流行当初から核酸検出検査より感度が低いと考えられていました。たしかに核酸検出検査の代表例であるPCR法を用いた検査と比較すると、抗原定性検査は感度が低いといえます。しかし、当院では化学発光酵素免疫測定法による抗原定量検査は抗原定性検査よりも精度がよく、唾液も使えることを明らかにしました。当院のこのデータをきっかけに、2020年6月18日より抗原定量検査が空港などにおけるスクリーニング検査*として活用されるようになりました。
*スクリーニング検査:症状のない人を含み、ある特定の集団を対象に行われるふるい分け試験のこと
大きな違いとしては、検査にかかる時間と感度が挙げられるでしょう。
従来から行われてきたPCR法は核酸を増幅させるために機械にかけて検体の温度を変化させる必要があり、この工程があるので検査自体に2時間程度時間がかかります。また、検査の効率化を図るために一度に多くの検体を集めて検査を行う必要があり、検体がそろうまでの待ち時間を加味すれば、結果が出るまでに2時間以上の時間がかかることになります。
一方、LAMP法は核酸を増幅させるために検体の温度を変化させる必要はなく、検査にかかる時間はおよそ30分程度です。また、一度に多くの検体を集める必要もないため、スピーディーに検査を行うことができます。なおLAMP法は必要な機械も1〜2kgと軽量で持ち運びができることから、さまざまな環境で検査を行える特徴があります。
一方、感度の点でみるとPCR法のほうが優れており、信頼性が高いと考えられています。ただし、LAMP法であっても実用できる程度の感度はあることが認められていますので、検査を受けるタイミングや場所、状況などに応じて選択することが望ましいといえるでしょう。
検体の使い分けについては、検査を実施する施設の状況やその地域の流行状況によるといえます。感染者数が多い地域ではそれだけ検体採取者の人数も必要となりますので、感染リスクを防ぐためにも唾液による検査を行うことを検討します。一方で、感染者数が少なく検査が必要となる患者さん自体が少ない地域などでは、鼻咽頭ぬぐい液の採取を検討してもよいでしょう。
実際、今でも鼻咽頭ぬぐい液を検体として検査を行っている施設はあります。そのような施設はもともと検体の採取に慣れており、比較的低い感染リスクで検体を採取できるなどの事情がある場合が多いようです。
両者を比較すると、核酸検出検査のほうが感度は高い一方で時間がかかりやすく、抗原検査のほうが感度は低いもののスピーディーに検査が行えるという特徴があります。そのため、状況に応じて検査を使い分けることが大切です。
たとえば、保健所の指定する濃厚接触者など陽性率の高い集団に対しては、より感度の高い核酸検出検査を実施することが望ましいです。一方、入院前の患者さんやこれから飛行機に乗る方については事前に体調を整えている方も多く、もともと陽性率が低いです。そのため、まずは抗原検査を実施し、偽陽性の方に対してのみ核酸検出検査を行うなどの工夫をすることによって、多くの方の検査を効率よく行うことが期待できます。
PCR法とLAMP法の検査については、状況に応じて適切なものを選択するのがよいでしょう。
陽性率の高い集団など、時間がかかってもより信頼度の高い検査が必要な場合にはPCR法を、なるべく速くその場で検査を行う必要がある場合にはLAMP法を選択することが望ましいです。
唾液を採取する際は滅菌された密閉容器を用意し、口の中に自然にたまる唾液を容器の中に2回分吐き出して蓋をします。採取する唾液の量は、十円玉相当を目安におおよそ1cc程度です。
空港などでは検査の際に唾液を採取しやすいよう、ブースの壁に梅干しやレモンといった唾液の分泌を促す食べ物の写真が貼ってあるなど、工夫されています。自宅で採取する場合は起床後すぐの採取が望ましく、採取後は常温で保存可能ですが、一晩以上保存する場合には冷蔵庫に入れて保存します。
正確な検査を行うためにも、唾液採取の10分前から飲食やうがい、歯磨きを控えましょう。
たとえば、のど飴やマウスウォッシュ(洗口液)、ガム、歯磨き粉などにはウイルスを殺してしまう成分が含まれている可能性があるからです。
1回あたりのPCR 検査の費用は、18,000円(検体の搬送料を含む)で、別に検査判断料として1,500円が必要となります。
なお、2020年3月6日より医師が診断のために検査を必要とした場合は検査が保険適応となり、3割負担の場合は5,850円程度(初診料等は含まない)で受けることができます。
新型コロナウイルスは誰もが感染する可能性のあるウイルスです。そのため、感染者が現れた際に周囲の人がすぐに検査を受けられるよう、あらかじめ体制づくりをしておくことが大切です。
新型コロナウイルス感染症の流行当初は、検査といえば鼻咽頭ぬぐい液を採取してPCR法で核酸検出検査を行うことが一般的でした。しかし、唾液でも検査が可能であること、LAMP法によって検査にかかる時間を短縮できること、感度が低いといわれた抗原検査でも手法によっては比較的信頼できる結果を得られることなどが分かってきたことにより、選択肢が増え、より多くの人が適切な検査を受けられるようになってきました。
北海道大学大学院 医学研究院 内科系部門 内科学分野 血液内科学教室 教授
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