肺がんは、死亡率の高い疾患の1つです。その理由として、症状が出にくく初期症状があったとしても風邪と似ていて見逃しやすいことや、レントゲン検査でははっきりと写らないといったことが挙げられます。しかし、早期に発見し、治療を行うことで治癒が可能です。
今回は、山形大学医学部外科学第二講座准教授の大泉弘幸先生に、肺がんの初期と、がん細胞が全身に転移した後の症状から、肺がんを診断する検査方法までお話をうかがいました。
肺がんとは、何らかの原因により、肺の気管、気管支、肺胞の細胞ががん化した疾患です。肺がんの種類は、発生部位、細胞の形態などで肺腺がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんなどにわかれています。
肺がんを発症する年齢は、60歳~70歳がピークです。しかし、高齢化により、80歳を超えてから肺がんが見つかる方も増加傾向にあります。患者さんの男女比は、約2対1で、男性のほうが多くなっています。
また、肺がんは死亡率の高い疾患の1つです。その理由として、早期発見が難しいことが挙げられます。なぜ早期発見が難しいかというと、肺がんに特徴的な症状がないことや、レントゲン検査では発見が難しいことなど様々な要因があります。
肺がんを発症する主な原因はたばこといわれています。また、建築物に使用されるアスベスト(石綿)も原因の1つです。しかし、非喫煙者や、アスベストに接していない方でも肺がんを発症するケースもあるため、すべての原因が特定されているわけではありません。国によっても、原因の違いがみられます。
肺がんは、初期とがん細胞が全身に転移した進行期では、異なった症状を発症します。
肺がんの初期の場合、咳や痰など風邪に似た症状を発症します。そのため、初期の段階では、症状だけで肺がんを見わけることは非常に困難です。咳や痰、声の出にくさなどから風邪だと思い込み放置してしまい、進行してから腫瘍が発見されるというケースも少なくありません。
また、気管支のなかに腫瘍ができた場合、肺炎を併発することがあります。腫瘍に気がつかずに肺炎の治療だけを行い、その後の精密検査の結果、進行した肺がんが見つかるということもあります。
肺がんが進行し、がん細胞が全身に広がった場合、様々な特徴的な症状が現れます。たとえば、脳に転移した場合は、めまいや手足の麻痺で発見されることがあります。局所で増大したがんが大きくなり、浸潤した部位によっては指の神経痛や、自律神経に異常をきたしまぶたが下がってくるなどの神経症状が現れます。また、上大静脈*にがんの細胞が入り込むことで、急激に両腕が膨れるというケースもあります。
*上大静脈…上半身にある血管を集め、心臓に戻す大きな血管
肺がんの腫瘍は、レントゲン撮影でははっきりと写りません。また、肺のなかでも心臓や肝臓の裏側の部分に腫瘍ができた場合は、心臓や肝臓の影となってしまいレントゲンではみることができません。そのため、がんを見逃す可能性があります。しっかりと肺がんを確認するためには、CT検査*が必要です。
*CT検査…体にX線を照射し、身体の断面を画像化する検査
図1のレントゲンの画像と、図2のCTの画像を見比べていただくと、CTで撮影したもののほうが、腫瘍がくっきりと写っていることがわかります。
肺がんの種類のなかでも、CTにより発見率が上がってきたものに肺腺がん*があります。そのため、肺腺がんは以前は進行してから見つかるものが多かったのですが、最近では早期に発見し治療できる確率が最も高い肺がんとなってきました。肺腺がんは女性に多い肺がんで、肺がん全体の約60%を占めています。その結果、肺がん全体の患者数は男性のほうが多くなっていますが、生存率は女性のほうが高い結果となっています。
*肺腺がん…肺の分泌腺が分泌される腺組織に発生するがん。肺だけでなく、さまざまな臓器に腺がんは発生する。
図4は早期の肺腺がんです。腫瘍のなかにがん細胞は少なく、空気が多く入っています。そのため、CTではもやっとしたすりガラスのように写ります。
胸部のCT撮影を行い、肺がんが発見された場合は、まず、他の組織にがん細胞が転移していないかなどの進行度合いを調べていきます。肝臓などに転移がないかを調べるために腹部のCT撮影、脳にがん細胞が広がっていないか頭部のCT撮影を行います。また、背骨など骨へ転移するケースもあるため、骨の検査も実施しますが、最近ではPET-CTで代用することも可能となってきました。
気管支のなかに腫瘍があると思われる場合は、気管支鏡*を使用し気管支のなかを検査します。しかし、気管支は先に行くほど、細く枝分かれしています、そのため、すべてをくまなくみるということは不可能です。こういった理由も、肺がんの早期発見を妨げる要因となっています。
*気管支鏡…直径4~6ミリの柔らかい管。口、または、鼻から管を通して、先についたカメラで気管や気管支のなかを視る。
近年、注目されているがんの検査方法としては、呼気検査があります。呼気検査とは、対象者の息から疾患を調べる検査です。がんの呼気検査では、息のにおいから、がん患者さんをスクリーニング(ふるいわけ)します。
現在は、がん患者さんには共通するにおいの成分があるということがわかり、研究が進められています。この検査は、肺がんだけでなくその他のがんもスクリーニングすることができます。近い将来、息を吐くだけで、がんの検査が可能になることが期待されています。
肺がんは早期に発見し、治療を行えば完治の期待できる疾患です。しかし、症状が出にくく、あったとしても初期症状が風邪と類似しており特徴がないことや、レントゲン検査では写りにくく見逃してしまう可能性があります。そのため、毎年検診として人間ドックでCT撮影を行うなどの対策が必要です。
肺がんには、薬物治療、放射線治療、外科療法(手術)の主に3つの治療法が存在します。記事2『肺がんの胸腔鏡手術とは 患者さんの心身の負担が少ない点がメリット』では、外科療法のなかで最も低侵襲な手術である胸腔鏡手術について詳しくご説明します。
山形大学医学部外科学第二講座准 教授、山形大学医学部附属病院 第二外科 教授
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