
この記事では、認知症の診断やケア、新薬を含む治療選択肢、そして各自治体の家族への支援について解説します。
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認知症によるもの忘れには、加齢によるもの忘れとは異なる特徴があります。また、認知症の手前の段階である軽度認知障害で治療を開始すると、進行を遅らせる可能性があります。
認知症とは、さまざまな原因によって認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態です。原因となる病気に応じて、脳の細胞が変性するアルツハイマー型認知症や、脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)による血管性認知症などに大きく分類されます。日本では近年、高齢者の増加に伴い認知症の患者数も増加しているため、重要な課題だと考えられています。
“最近、人の名前が出てこない”といったもの忘れは、加齢に伴う自然な変化である場合が多く、必ずしも認知症の兆候というわけではありません。加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの違いを以下の表で整理します。

たとえば、約束の日時を忘れたが、手帳を見て自分で確認できた場合は正常範囲ですが、約束したこと自体を忘れていた場合は、受診を検討すべきサインといえます。
認知症と正常の中間には、“軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)”と呼ばれる段階が存在します。MCIとは、もの忘れはあるものの日常生活は基本的に自立している状態を指します。
年間10~15%程度のMCIの方が認知症へ移行する一方で、16~41%程度は正常レベルに回復するとされています。つまり、MCIは認知症の予備軍であると同時に、適切な治療(薬物療法や運動、知的活動など)によって進行を遅らせる可能性がある状態でもあります。この段階で異変に気付き、専門医を受診することが重要です。
認知機能の低下が進行すると、もの忘れのほか、さまざまな症状が現れます。これらは中核症状と呼ばれ、以下のようなものがあります。
また、中核症状に伴って感情のコントロールがきかなくなり怒りっぽくなること(易怒性)や、意欲が低下して趣味に関心を示さなくなることもあります。これらは行動・心理症状(BPSD)と呼ばれ、性格の変化ではなく、認知症による症状である可能性を理解することが大切です。
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認知症が疑われた場合、問診やスクリーニング検査、画像検査などが行われます。
認知症が疑われた場合、まずは問診が行われます。普段の生活の様子や既往歴、服用している薬、趣味、職業歴など、さまざまなことが確認されます。患者さん本人だけでなく、患者さんをよく知る家族と一緒に受診すると、医師はより正確に状況を把握することができます。
認知機能を調べるため、改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)と呼ばれる検査などが行われます。いずれも医療従事者からの質問に答える形で実施される検査です。検査によって詳細な方法は異なりますが、主に見当識や記憶力、計算力などが確認されます。回答は口頭で答えるだけでなく、文章を書いたり図形を描いたりする場合もあります。
認知症に内科的な病気が関係しているかどうかを調べるために行われます。感染症や甲状腺機能低下症、ビタミンBの不足などの病気が認知症を引き起こしている可能性があります。
主にMRI検査やCT検査によって、脳の萎縮(特に海馬)や脳血管障害の有無を確認します。正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、脳腫瘍との鑑別にも、MRI検査やCT検査が用いられています。
さらに詳しく調べるため、脳内の血流を確認するSPECT検査やPET検査が行われることもあります。また、アルツハイマー型認知症が疑われる場合は、アルツハイマー病の原因物質(アミロイドβ)を調べるため、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査が行われる場合があります。
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認知症にはさまざまな評価尺度がありますが、重症度を示す指標の1つとして、臨床認知症評価尺度が用いられています。重症度に応じて適したケアや治療が検討されます。
認知症の全般的な重症度を評価するための臨床認知症評価尺度(CDR)と呼ばれる尺度があります。CDRでは、日常生活をどの程度こなせているかによって評価が行われます。評価項目は記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味・関心、介護状況の6項目からなり、患者さん本人や家族からの情報に基づいて、以下の0~3に分類されます。一般的に、CDR0.5(認知症の疑い)であればMCIに、CDR1(軽度)以降であれば認知症に該当すると考えられています。
たとえば、新しいことはすぐに忘れ、現在の時間や場所が分からなくなり、着替えなど身の回りのことに介助が必要な場合は、CDR2(中等度認知症)と判定されます。
MCIでは、軽いもの忘れなどはありますが、身の回りのことは自立しています。そのため、もの忘れへの対処として、カレンダーやノートに予定や日々の出来事を書き込む習慣をつけるようにします。
高血圧や糖尿病などがある場合、認知症を進行させる可能性があるため、生活習慣の改善をはじめとする治療が重要です。また、アルツハイマー病が原因の場合は、抗アミロイドβ薬による薬物療法が検討されます。将来に備えて、あらかじめ後見人を選んでおく任意後見制度の活用を検討することもあります。
軽度認知症では、食事や着替え、入浴など基本的な日常生活動作(ADL)は自立していますが、手段的日常生活動作(IADL)には支援が必要な状態です。IADLとは、掃除や料理、金銭管理、服薬管理などの複雑な動作を指します。患者さん本人ができることは自分で行い、買い物や服薬管理、火の消し忘れの確認など、自力では難しい動作に対するサポートが必要です。
中等度認知症では、着替えや入浴に介助が必要になります。また、環境の変化や不安から、ひとり歩き(徘徊)や妄想などのBPSDが現れることがあります。この段階ではケアマネジャーと相談のうえ、デイサービスやショートステイなどの介護保険サービスの利用を検討しましょう。
また、環境調整やコミュニケーションの工夫も重要です。たとえば、これまでの生活習慣を尊重した環境を整えることや、不安を訴える方には、否定せずに話を聞く(傾聴)ことなどを心がけます。
重度認知症では、言語によるコミュニケーションが困難になり、歩行や排泄に全介助が必要となります。感染症や脳血管障害、低栄養などによって入院することもあります。訪問介護や特別養護老人ホーム、グループホームなどの施設入所を検討してもよいでしょう。患者さんが穏やかに過ごせる環境を整えることが大切です。
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今まで認知症の症状を一時的に改善するための薬がありましたが、近年、アルツハイマー型認知症に対する新たな薬が登場しました。
コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)やNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)などの既存のアルツハイマー型認知症の治療薬は、神経伝達物質を調整することで、記憶障害や意欲低下などの中核症状を一時的に改善・維持する効果があります。ドネペジルは、“αシヌクレイン”と呼ばれるタンパク質が脳に蓄積して生じた“レビー小体”という凝集体が多発するレビー小体型認知症にも用いることが可能です。
近年承認された抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)は、脳内に蓄積したアミロイドβを除去することで、病気の進行を抑制する薬です。ただし、レカネマブとドナネマブは認知症の進行を完全に止めたり、治癒したりする薬ではありません。また、対象者は以下の条件を満たす方に限られ、中等度以上に進行した認知症の方は、現時点では適応外となります。
また、治療対象になるかどうかを調べるため、認知症の重症度判定やアミロイドPET検査などに加え、事前にCDRやMMSE、脳のMRI検査が行われます。
レカネマブとドナネマブに共通した主な副作用は、脳からアミロイドが除去される過程で、血管の透過性が高まることで生じる脳のむくみや微小な出血です。そのため、治療開始後は定期的にMRI検査を行う必要があります。
既存の認知症治療薬はジェネリック医薬品もあり、比較的安価に治療を行う選択肢があります。新薬では、3割負担の場合、レカネマブは約99,000円/月、ドナネマブは初回~3回目までは約40,000円、4回目以降は約80,000円となります。これに検査費用や診察代が加わります。
日本の公的医療保険制度では“高額療養費制度”が適用される場合があります。具体的な負担額は年齢や所得によって異なるため、病院の相談窓口や自治体で確認しましょう。
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認知症は家族だけで対応するものではなく、地域で取り組むべきものだと捉えられており、自治体ではさまざまな取り組みが行われています。また、認知症リスクを低減するために、日々の生活を楽しむことや、生活習慣病にならないよう気を付けることも大切です。
“患者さん本人が受診を頑なに拒否する”、“家族が疲弊して共倒れしそう”といった困難な状況にある場合、家族だけで解決しようとする必要はありません。各自治体では以下のようなさまざまな支援を提供しているため、お住まいの自治体の支援窓口を調べてみましょう。
医師や看護師、社会福祉士などの専門職がチームを組み、ご自宅を訪問します。健康診断などの名目で訪問し、信頼関係を築きながら医療や介護サービスへとつなぐ支援を行います。主に地域包括支援センターが窓口となっています。
認知症の本人、家族、地域住民、専門職が参加し、お茶を飲みながら交流する場です。悩みを共有したり、専門のスタッフに気軽に相談したりすることができます。
日常生活の中でできる方法として、趣味や人と交流することで生活を楽しむことが挙げられます。生活習慣病は認知症にもつながるため、バランスのとれた食事や適度な運動など、生活習慣の改善も重要です。また、耳が遠くなってきたと感じる場合は、補聴器を使用しましょう。
A. アルツハイマー型認知症には遺伝的な要因が関与している場合がありますが、それだけで発症するわけではありません。遺伝的な要因よりも、加齢や生活習慣(高血圧、糖尿病、運動不足など)の影響が大きいと考えられています。そのため、家族に認知症の方がいるからといって必ず発症するわけではありませんが、生活習慣を整えることは有効な予防策となります。
A. 認知症の診断を受けた場合、道路交通法により運転免許の取り消しまたは停止の対象となります。判断能力や反応速度の低下により、重大な事故につながるリスクが高まるためです。
患者さんが運転免許の返納を嫌がる場合は、主治医から医学的な説明をしてもらったり、警察署の運転相談窓口などを利用したりして、自主返納を促すことが推奨されます。返納することで、タクシーやバス運賃の割引など、さまざまな特典を受けられる自治体もあります。
A. 特定の食品だけで認知症を防ぐことはできませんが、バランスの取れた食事がリスクを下げると考えられています。具体的には、野菜、果物、魚、豆類、緑茶などを積極的に取り、塩分や動物性脂肪を控えることが推奨されています。これらは生活習慣病の予防にもつながり、結果として脳の健康維持に役立ちます。
認知症は、早期に発見することで進行を遅らせる可能性があります。また、診断後も自分らしい生活の持続や家族の負担の軽減のため、適切な支援と社会資源(介護保険サービスや任意後見制度など)を組み合わせることを検討しましょう。
鳥取大学 医学部 保健学科 認知症予防学講座(寄付講座) 教授
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