広島ハートセンター 理事長 木村祐之先生
心筋梗塞は、心臓に血液を送っている「冠動脈」という血管が詰まり、心臓の筋肉に酸素が届かなくなり心筋が傷んでしまう病気である。喫煙・糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満などを背景に起こることが多く、高齢者の病気というイメージを持つ人もいるだろう。
しかし近年は、30歳代の若い世代や閉経前の女性にでも発症することがあるという。また糖尿病の方、高齢者では、典型的な「胸の痛み」がはっきりせず受診が遅れるケースもある。
広島ハートセンター(広島市安佐南区)の理事長を務める木村 祐之先生に、心筋梗塞の症状や見逃してはいけないサイン、治療、そして再発を防ぐために大切なことについて話を伺った。
心筋梗塞の「梗塞」とは、血管が詰まって血流が止まり、酸素や栄養が届かなくなり組織が死んでしまった状態のこと。心臓へ酸素や栄養を届けている冠動脈という血管が詰まり、血液が届かなくなることで心筋が傷んでしまうのが心筋梗塞です。
心筋梗塞の原因となる冠動脈の詰まりは、なぜ起きるのでしょうか。大きな原因の1つが「動脈硬化」です。
動脈硬化が進むと、血管の壁にコレステロールなどがたまり、「プラーク」と呼ばれるふくらみができます。皮膚にできるニキビに少し似ているので、そのように説明すると分かりやすいかもしれません。ニキビが大きくなって破裂するように、プラークも破れることがあります。すると、その破れた部分に血小板などが集まって「血栓」という血の塊ができ、あっという間に血管をふさいでしまうと、心筋梗塞が起こります。
動脈硬化の危険因子としては、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満に加え、加齢や喫煙なども挙げられます。ただ、私の実感としては、患者さんの数が急激に増えているという印象はありません。血圧やコレステロールを下げる薬が普及し、動脈硬化の危険因子を管理できるようになってきたことも、その理由の1つではないかと思います。
しかし、患者さんの年齢層には変化を感じています。私が研修医だった頃は、心筋梗塞といえば60歳代、70歳代の患者さんが中心で、30歳代の患者さんは珍しい存在でした。現在でも若い患者さんの心筋梗塞は多くありませんが、30歳代などの若い方が発症することもあります。若い方でも、喫煙、高コレステロール、糖尿病、肥満、家族歴などがある場合には注意が必要です。「まだ若いから大丈夫」とは言い切れないのです。
心筋梗塞と関連する病気に「狭心症」があります。先ほど述べた「プラーク」ができることにより冠動脈が狭くなると、普段は症状がなくても、階段を上ったり、重い荷物を持ったりしたときに、心臓が必要とする血液を十分に送れなくなることがあります。
その結果、「胸が締め付けられる」「胸が重い」「胸が苦しい」「息が苦しい」といった症状が出ることがあります。たとえば、これまで何ともなかったのに、最近になって階段を上ると胸が苦しくなる。布団の上げ下ろしをすると胸が重くなる。こうした「以前とは違う変化」は、大切なサインです。
食後に胸の症状が出ることもあります。典型的な狭心症では、運動をやめて休むと症状が改善することが多いのですが、症状が以前より強くなったり、より軽い運動でも起こるようになったり、安静にしていても症状が出る場合には注意が必要です。特に、胸の圧迫感や痛みが長く続く場合には、「心筋梗塞」の可能性があります。
心筋梗塞というと、「激しい胸の痛み」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、必ずしも典型的な胸痛が出るとは限りません。特に高齢の方や糖尿病の方では、症状が分かりにくいことがあります。「なんとなくだるい」「息苦しい」「気分が悪い」「急に汗が出てきた」といった症状だけで、調べてみると心筋梗塞だったということもあります。
ここで注意していただきたいのは、このような狭心症や心筋梗塞の典型的な症状が出にくい方がいることです。とくにご高齢の方や糖尿病の方などでは、狭心症や心筋梗塞を発症しても痛みを感じず、原因不明の不整脈や倦怠感などを訴える方もおり、ただの体調不良と思って受診したところ、実は心筋梗塞だったということもあります。
また、胸ではなく、顎や奥歯、肩甲骨、首、みぞおちなどに痛みが出ることもあります。私が実際に診た患者さんでは、首の痛みで整形外科を受診したものの異常が見つからず、後に心臓が原因だったと分かった方がいらっしゃいました。
胸の痛みがずっと続き、冷や汗などが出る場合は、ためらわずに救急車を呼んでいただきたいと思います。心筋梗塞では、治療が遅れるほど心筋へのダメージが広がる可能性があります。夜中だと救急車を呼ぶのは気が引けるという方もいらっしゃるかもしれませんが、結果的に心筋梗塞でなければ、それに越したことはありません。何事もなければそれで安心できるのですから、ご自身やご家族の命を守るため、ほんの少しの異変も見逃すことなく、迷わず行動を起こしてください。
心筋梗塞は時間との勝負です。心筋梗塞の治療で最も大切なことの1つは、できるだけ早く血流を再開させることです。血管が詰まっている時間が長くなるほど、心臓の筋肉が傷んでしまう可能性が高くなります。そのため、心筋梗塞が疑われる患者さんが病院に来た場合には、まず心電図などを行い、できるだけ早く診断します。
血液検査では「心筋トロポニン」という、心臓の筋肉が傷ついたときに血液中に増える物質を調べます。現在は、少量の心筋障害も検出できる「高感度トロポニン検査」が広く使われています。ただし、典型的な心筋梗塞では、検査結果を待つことが治療開始の遅れにつながってはいけません。病院に到着してから治療するまでの時間だけではなく、症状が出てから救急車を呼び、医療機関にたどり着くまでの時間も重要です。だからこそ、「もう少し様子を見よう」と我慢しないことが大切なのです。
心筋梗塞と診断された場合には、詰まった冠動脈をできるだけ早く再開通させます。現在、多くの場合に行われているのが「カテーテル治療」です。手首などから細い管を血管の中に入れ、心臓の冠動脈まで進めます。詰まった場所に細いワイヤーを通し(図の①)、風船で血管を広げます(②)。そして必要に応じて「ステント」という小さな金属製の筒を入れ、血液が流れるようにします。これによって、できるだけ心臓の筋肉を守ります。
ただし、動脈硬化が進んで血管の一部が石のように固くなっていることがあります(石灰化)。このような石灰化が非常に強い場合には、通常の風船だけでは十分に血管を広げられないことがあります。その場合には、専用の器具で石灰化した部分を削ったり、衝撃波を使って治療を行ったりすることがあります。ただし、こうした治療が必要かどうかは、血管の状態を血管内超音波などを用い観察しながら判断します。もしカテーテル治療だけでは十分な治療が難しい場合には、「冠動脈バイパス手術」という外科手術が必要になることもあります。どの治療が最も適しているかは、血管の詰まり方や心臓の状態、患者さんの全身状態などを総合的に判断して決めます。
当院ではカテーテル治療を中心に、必要な場合には心臓血管外科と連携し、患者さんに適した治療方法を検討しています。なお、MICS(低侵襲心臓手術)は、傷口を小さくするなど体への負担を抑えることを目指した外科手術の方法の1つです。ただし、急性心筋梗塞の初期治療としてMICSを行うわけではありません。急性期には、まず一刻も早く血流を再開させることが優先されるためカテーテル治療を選択します。
無事に治療を終えたとしても、動脈硬化そのものがなくなったわけではありません。これまでと同じ生活を続けていると、再び狭心症や心筋梗塞を起こす可能性があります。再発を防ぐには、退院後の管理が大切です。患者さんの状況を見ながら食事や運動習慣の改善、禁煙に取り組み、薬によって血圧やコレステロールなども管理していきます。
そして、ぜひ知っていただきたいのが「心臓リハビリテーション」です。心臓リハビリというと、「心臓が悪い人が運動する」というイメージがあるかもしれません。もちろん運動も重要ですが、それだけではありません。安全に運動する方法を学びながら、食事、薬、血圧、コレステロール、禁煙などについても見直し、心筋梗塞を再び起こさないための生活を身につけていきます。心臓リハビリテーションは、心筋梗塞後の再発予防や生活の質を改善することが期待されており、現在のガイドラインでも重要な治療の1つとして推奨されています。
主に急性期の治療を行う当院の例でも、治療後の心臓リハビリにも取り組んでいます。院内で行うことで、体調の変化に気付きやすく、いざというときにも対応しやすいという面があります。もちろん、他院の主治医のもとに通いながら、リハビリだけを当院で続けている患者さんもいらっしゃいます。
なお、心臓リハビリの現場は心臓を患った患者さん同士が顔を合わせ、情報交換をする場にもなっています。1人で生活習慣を変えようと思っても難しいことがありますから、スタッフや患者さん同士で励まし合いながら続けられることにも意味があると思います。
心臓の病気は、早く気付いて対応すれば、その後の経過を大きく変えられるものがあります。
私は研修医のころに勤務した病院で、胸の痛みに苦しんでいた患者さんがカテーテル治療を受け、みるみる元気になって歩いて帰っていく姿を見ました。もちろん治療の結果は人によって異なりますが、心臓の病気では、早く気付いて対応すれば、その後の経過を大きく変えられることがあるのです。
だからこそ、繰り返しとなりますが、皆さんには自分の体に起きている変化を見過ごさないでいただきたいと思います。そして必要なときには遠慮せずに救急車を呼び、診断と治療につなげてください。
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