編集部記事

社員に新型コロナウイルス感染症の疑いが出たらどうするの?~企業が行うべき感染対策とは~

社員に新型コロナウイルス感染症の疑いが出たらどうするの?~企業が行うべき感染対策とは~
松本 吉郎 先生

日本医師会 会長、松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長

松本 吉郎 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

この新型コロナウイルス感染症に関する記事の最終更新は2020年06月10日です。最新の情報については、厚生労働省などのホームページをご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は初期症状では発熱・咳など風邪のような症状が現れ、重症化すると肺炎を引き起こし死に至ることもある感染症です。新型コロナウイルス感染症は人から人に感染するウイルスなので、感染拡大を予防するために職場における労働者の健康管理や労働環境の改善などを講じる必要があります。

今回は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う労働者の健康管理や労働環境の改善、政府からの助成制度などについて、日本医師会常任理事 松本 吉郎(まつもと きちろう)先生にお話を伺いました。

※本記事は2020年5月14日時点の医師個人の知見に基づくものです。

新型コロナウイルスに感染した場合、数日から14日程度の潜伏期間を経て発症するため、発症初期の症状は発熱、咳など普通の風邪と見分けがつきません。このため、発熱、咳などの風邪症状が見られる労働者については、新型コロナウイルスに感染している可能性を考えた労務管理が事業者に求められます。具体的な対策としては以下のようなものが挙げられます。

  1. 発熱、咳などの風邪症状が見られる労働者への出勤免除(テレワークの指示を含む)を実施するとともに、その間の外出自粛を勧奨する
  2. 労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取扱いについては、労使で十分に話し合い、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整える
  3. 風邪の症状が出現した労働者が医療機関を受診するためなどやむを得ず外出する場合でも、公共交通機関の利用は極力控えるよう注意喚起する
  4. 新型コロナウイルス感染症についての相談の目安”を労働者に周知徹底し、これに 該当する場合には、帰国者・接触者相談センターに電話で相談し、同センターから帰国者・接触者外来の受診を指示された場合には、その指示に従うよう促す

また、労働者の健康状態が以下に該当する場合には、各都道府県の帰国者・接触者相談センターに電話で相談し、係員の指示に従うようにしましょう。

新型コロナウイルス感染症についての相談の目安

  1. 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱などの強い症状のいずれかがある場合
  2. 高齢の方、基礎疾患がある方、免疫抑制状態にある方、妊娠している方など特に配慮しなければならない方は発熱・咳など比較的軽い風邪の症状がある場合
  3. 上記以外の方で発熱・咳などの比較的軽い風邪の症状が続いている場合(症状が4日以上ある場合、必ず相談する。解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)

特に、労働者の中で高齢の方や糖尿病心疾患・呼吸器疾患などの基礎疾患(持病)がある方、病気の治療などで免疫抑制状態にある方、妊婦さんなどがいる場合には十分に配慮することを心掛けましょう。なお、症状が4日以上続く場合は必ず“帰国者・接触者相談センター”に問い合わせをしましょう。症状には個人差があるため、強い症状だと感じる場合はすぐに相談をしてください。

事業者には、労働者が新型コロナウイルスの感染者や濃厚接触者となった場合を想定して事前に対応ルールを作成し、それを労働者に周知徹底していただきたいです。現段階では、新型コロナウイルス感染症に対応したルールを作成し徹底している企業は少ないようです。感染者・濃厚接触者が発生した場合は事前に決めた対応ルールに従って対応するということが分かっていれば、労働者も働きやすくなり、トラブルが起こりづらいと考えます。

具体的な対応ルールとしては、たとえば以下のようなものが挙げられます。

新型コロナウイルス感染症の対応ルール

  • もし陽性反応が出た場合、誰に報告し社内ではその報告をどのように扱うのか
  • 職場内の消毒が必要となった場合どのように対応するのか
  • 感染した労働者に解雇・差別など不利益が生じないよう、どのような対策を講じるのか
  • 感染した労働者の休業中の給与の取り扱いはどのように対応するのか

など

対応ルールの作成時には、厚生労働省・労働基準局が発表している“職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト”を参考にしてください。

【厚生労働省】職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト

このチェックリストでは職場内での基本的な感染症予防対策や感染者が出た場合の対応など、事前に決めておくべき対応ルールが詳しく記載されています。状況によっては全てを守ることは難しいかもしれませんが、できるところから取り入れて感染拡大防止に向けた一人ひとりの行動変容を心掛けることが重要です。

労働者には、症状がなくても出勤前に体温を測定することを義務付け、発熱があった場合には出勤を見合わせるよう指示しましょう。また、疲労がたまると感染症にかかりやすくなるため、長時間の時間外労働を避けるなど、労働者の健康管理を今一度徹底しましょう。

まず、海外在住・出張中の労働者やその家族については、駐在している国の情勢などをもとに帰国か残留かの判断を速やかに行いましょう。国や地域、事業者の対応方針によっても異なりますが、現段階では移動によって感染リスクを高めてしまわないためにも一時帰国の実施予定がない企業が大半のようです。また、たとえ一時帰国をしたとしてもいつ海外に戻れるか分からない、駐在している国と比較して日本が安全とも限らない、飛行機の便数が少なくなってきていることなども理由として挙げられます。

一方、これから出張で海外渡航を考えている場合、まずは本当に現地へ行く必要があるのかを再検討し、可能な限りパソコン・スマートフォンなどの情報通信機器を使用した代用策を考えましょう。どうしても海外への出張が必要な場合には、事前に現地の情報をきちんと集めておくことをおすすめします。国や地域によっては感染症の流行に伴い治安が乱れているところもあります。また、物資が手に入りづらいケースや目的の仕事ができないケースもあるでしょう。マスク・手袋・持ち込める食料品・薬などを準備し、可能な限りの感染症対策をして渡航してください。

いずれにしても、新型コロナウイルス感染症に関する各国の対応策は極めて流動的です。そのため、各国当局や大使館のウェブサイトを参考に常に最新の情報を確認することを意識しましょう。

2020年4月7日に新型コロナウイルス感染症対策本部長である安倍首相から7都府県に対し緊急事態宣言が行われ、4月16日には全都道府県に広がりました。緊急事態宣言では新型コロナウイルスの自己への感染を避けるとともに、他人に感染させないようにするため、国民全員が基本的な感染予防対策の実施、不要不急の外出自粛を行い、最低7割、極力8割の接触機会の低減を目指すことが伝えられました。

これに伴い、事業活動においてもテレワークの導入や出張を電話会議で済ませるなど、7~8割の接触機会低減を意識した業務改善をしていただきたいです。

業種や業務内容によってはテレワークなど推奨された業務環境を整えることが困難な場合もあるでしょう。そのため、まずはできることから始めるという意識を持って臨むことをおすすめします。たとえば、どうしても出勤が必要な業種の場合には出退勤時の感染リスクを下げるために時差出勤や自転車通勤の活用を検討しましょう。

また、産業医の観点からはこれを機に職場における労働衛生管理を見直していただきたいです。

  1. 労働衛生管理体制の再確認
  2. 換気の徹底などの作業環境管理
  3. 職場の実態に応じた作業管理
  4. 手洗いの励行など感染予防に関する基本的な知識も含めた労働衛生教育
  5. 日々の体調管理なども含めた健康管理

これらの労働衛生管理を今一度見直し、新型コロナウイルスに備えた組織づくりを行いましょう。また、労働衛生管理の見直しの際には前述のチェックリストを活用することもおすすめします。

職場での感染防止対策については1.換気の徹底など2.接触感染の防止3.飛沫感染の防止4.一般的な健康確保措置の徹底などを推奨します。以下ではそれぞれの内容について詳しくお伝えします。

※以下厚労省の通知文抜粋

換気の徹底など

  • 必要換気量(1人あたり毎時30m3)を満たし“換気が悪い空間”としないように工夫する
  • 職場の建物が空気調和設備、機械換気設備など機械換気の場合、換気設備を適切に運転・管理し、ビル管理法令の空気環境の基準が満たされていることを確認する
  • 職場の建物の窓が開閉可能な場合は、1時間に2回程度、窓を全開して換気する

接触感染の防止

  • 電話、パソコンのデスクなど物品・機器などについて、複数人での共用をできる限り回避する
  • 事業所内で労働者が触れることがある物品・機器などは、こまめに消毒を実施する
  • 労働者全員が石鹸によるこまめな手洗いを徹底**する
  • 入手可能であれば、感染防止に有効とされている手指消毒用アルコールを職場に設置する
  • 外来者、顧客・取引先などに対しても、感染防止措置への協力を要請する

*手で触れる共有部分の消毒には、薄めた市販の家庭用塩素系漂白剤で拭いた後、水拭きすることが有効です。なお、家庭用塩素系漂白剤は、主成分が次亜塩素酸ナトリウムであることを確認し、0.05%の濃度に薄めて使用しましょう。

**手洗いの徹底を促すため、洗面台やトイレなどに手洗いの実施について掲示するのもよいでしょう。

飛沫感染の防止

  • 咳エチケットを徹底する
  • 規模の大小にかかわらず、換気等の励行により風通しの悪い空間を作らないよう心掛ける
  • 事務所や作業場においては、人と人との間に十分な距離を保持(1m以上)する
  • 会話や発声の際には、特に間隔を空ける(2m以上)ようにする
  • テレビ会議、電話、電子メールなどを活用し、人が集まる形での会議などをできる限り回避する
  • 外来者、顧客・取引先などとの対面での接触が避けられない場合は、必ず距離(2m以上)を取るようにする
  • 業務の性質上、対人距離などの確保が難しい場合は、マスクを着用して業務を行うようにする
  • 社員食堂での感染防止のため、座席数を減らす、昼休みなどの休憩時間に幅を持たせて利用者の集中を避けるなどの措置を行う
  • そのほか密閉・密集・密接となるような施設の利用方法について改めて検討する

*風通しの悪い空間や人が至近距離で会話する環境は感染リスクが高いと考えられています。

一般的な健康確保措置の徹底など

  • 疲労の蓄積(易感染性)につながるおそれがあるため、長時間の時間外労働などを控える
  • 一人ひとりが十分な栄養摂取と睡眠の確保を心がけるなど健康管理を行う
  • 出勤前や出社時などに体温測定を行う、風邪の症状含め体調を確認するなど、職場において、労働者の日々の健康状態の把握に配意する

日本医師会では、2020年4月1日に“医療危機的状況宣言”を発し、国民の皆様に対して自身の健康管理・感染予防対策・適切な受診行動の呼びかけを行いました。また、4月3日には医療危機的状況宣言を持参のうえ、安倍総理との意見交換を行い新型コロナウイルス感染症への対応ができる体制づくりについて医師会からの意見を述べ、ご理解いただきました。そして、4月4日に加藤厚生労働大臣に要望書を提出し、国民の感染予防への取り組みのさらなる強化をお願いした結果、これらの動きが実を結び、4月7日に安倍総理より緊急事態宣言・緊急経済対策が発令されました。今後も日本医師会では、新型コロナウイルス感染症について国に提言をしながら、さまざまな対策を講じてまいります。

なお、日本医師会の新型コロナウイルスに関する取り組み・最新情報については、以下のウェブサイトに取りまとめておりますのでご覧ください。

    関連記事

  • もっと見る

    「新型コロナウイルス感染症」に関連する病院の紹介記事

    特定の医療機関について紹介する情報が掲載されています。

    関連の医療相談が941件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「新型コロナウイルス感染症」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    実績のある医師をチェック

    新型コロナウイルス感染症

    Icon unfold more