愛知県医師会は医療従事者を対象として、2月14日、新型コロナウイルスワクチンに関する研修会を開催しました。研修会で「新型コロナウイルスワクチンの基礎と原理」というテーマの講演を行ったのは峰 宗太郎先生です。峰先生は、アメリカ国立研究機関の博士研究員であり、新型コロナウイルス感染症に関する情報提供サイト「こびナビ」の副代表も務めています。
先生はアメリカで自身が新型コロナウイルスワクチンを接種したお話も交えながら「今回の講演でワクチンに対する知識を深め、少しでも安心してワクチンを接種してもらえれば」と参加者に呼びかけました。本記事では、その講演の内容をまとめています。
ワクチンとは、病原体の攻撃や侵入に備えるために体の免疫を反応させる医薬品です。
ヒトの獲得免疫(過去に体内に侵入した病原体などの情報を敵として記憶し、次の侵入に備える機能)には以下のように、主に2つの種類があります。
今回の新型コロナウイルスワクチンも他のワクチン同様に、接種することで新型コロナウイルスに特異的な抗体を体内で作るという液性免疫と、ウイルスを攻撃する細胞を刺激(活性化)する細胞性免疫を利用しています。
現在、ワクチンには主に6つの種類があります。
それぞれのワクチンを簡単に説明すると以下のとおりです。
このうち、今回日本で先行接種が開始されたファイザー社・ビオンテック社製ワクチンはmRNAワクチンです。
では、「mRNA」とは一体何なのでしょうか。
人間の体では、DNAに遺伝情報(設計図)が記録・保持されています。この情報がmRNAに写し取られ、さらにmRNAが抗体、あるいは筋肉や臓器などの体を構成する物質であるタンパク質に翻訳されることで、タンパク質が人間の体で機能を発揮することができるようになるのです。
なぜワクチンを接種することで新型コロナウイルスの発症予防が期待できるのかという点を知るためには、まず新型コロナウイルスに感染する仕組みを知る必要があります。
新型コロナウイルスの表面には、「スパイクタンパク質」と呼ばれる突起があります。スパイクタンパク質は、人間の細胞の表面に生えている「ACE2」というタンパク質と結合することでヒトの細胞に付着します。
その後、細胞の中に入り込んで自分の中身を放出することで感染が成立するのです。
つまり、感染が成立する条件の1つは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質がヒトの細胞の表面にあるACE2と結合することだといえます。
ワクチン接種の最大の目的は、このスパイクタンパク質とACE2の結合を邪魔する「中和抗体」というものを体内で作らせることです。
これらをふまえ、今回先行接種されている新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン)が体内で中和抗体を作らせるまでの流れをみていきましょう。
mRNAワクチンには、スパイクタンパク質の設計図(遺伝情報など)の一部が含まれています。これを投与し、細胞内にmRNAを届けると、その細胞がスパイクタンパク質を産生します。
すると、免疫細胞はスパイクタンパク質の情報を認識し、記憶して、新型コロナウイルスに対抗するため、ウイルスに特異的な中和抗体を準備します。これにより、新型コロナウイルスに感染したことがない方でも、新型コロナウイルスに対する免疫を獲得することができるのです。
新型コロナウイルスには多くの変異が報告されています。それに対してワクチンは1種類でよいのかと不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
私たちにとって身近な存在であるインフルエンザのワクチンと比較してみましょう。
インフルエンザウイルスにはさまざまな種類があり、その年ごとに異なるワクチンを接種します。これは、インフルエンザウイルスの表面にある突起(人間の細胞と結合する部分)の種類が非常に多いためなのです。さらに、突起には変異を起こす部分も非常に多く存在し、たとえワクチンを接種して中和抗体ができても、変異によってすぐに中和抗体をかわされてしまいます。
一方、新型コロナウイルスに関しては、変異ウイルスはあるものの新型コロナウイルス自体は1種類しか存在していません。加えて、産生が必要な中和抗体のターゲットもスパイクタンパク質のみです。
こうしたことから、新型コロナウイルスワクチンはインフルエンザワクチンの開発と比較すると非常にシンプルに進めることができます。
mRNAについて、長い間体内に残る、あるいはDNAに何かしらの影響を及ぼすのではないかという疑問もよく耳にします。しかし、いずれも心配はありません。
mRNAは体内に入りスパイクタンパク質を産生した後、急速に分解されます。時間にして約20分後には物質としてのRNAは半減すると考えられており、この点に関しては動物実験も実施されています。実験は、発光するタンパク質の情報をmRNAに乗せて投与し、投与後どの程度の間光っているかを確かめるという内容です。結果は、投与から0.2日ほどで体中が光るようになった後、急速に発光は収まっていき、投与から10日後には検出されなくなるというものでした。
こうした実験からも、mRNAは人間の場合でも恐らく10日程度しか体内に残らないと予測されます。
また、体内でmRNAをDNAに変換するためには特殊な酵素が必要です。この酵素は基本的にヒトの体にはほとんど現れることがなく、テロメラーゼなどの例外はあるものの、それを考慮する必要はまずありません。仮にmRNAをDNAに変換する酵素が現れたとしても、mRNAから作られたDNAがさらに別のDNAに組み込まれるという現象も、特殊な酵素(インテグラーゼ)がなくては起こり得ません。
そのため、mRNAワクチンの接種によってDNAに何らかの影響を及ぼすというような懸念はないのです。
今回の研修会は、愛知県医師会調査室委員会委員であり衆議院議員の今枝 宗一郎先生発案のもと、愛知県医師会の柵木 充明会長主催で実施されました。
研修会の模様は愛知県医師会のYouTubeチャンネル(https://youtu.be/rpDYTeo35CQ)から視聴することができます。
研修会の内容をまとめた記事は以下のとおりです。
木下 喬弘先生ご講演「新型コロナウイルスワクチン 効果と副反応に関する理解深めて」
研修会 質疑応答「新型コロナウイルスワクチンに関するQ&A――適切な知識に基づいた判断を」
今回講演を行った峰先生、木下先生が副代表を務める「こびナビ(https://covnavi.jp/)」では、今回の研修で使用された資料をはじめ、新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報を発信しています。こうした媒体も活用しながら、あらゆる情報が飛び交う状況下で、適切な情報を迅速に得ることが重要です。
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