2020年5月4日に厚生労働省が新型コロナウイルスを想定した新しい生活様式を公表しました。その後5月25日には全都道府県で緊急事態宣言が解除され、現在では通勤・通学などの外出が再開されている企業や学校もあります。しかし、いまだに新型コロナウイルス感染症流行の第2波到来も懸念されるなか、私たちは新型コロナウイルスに備えて日々の生活をどのように注意して送るべきなのでしょうか。
今回は緊急事態宣言の解除に伴い、今後の新しい生活様式や意識すべきことなどについて、小泉小児科医院 院長、日本医師会 常任理事 釜萢 敏先生にお話を伺いました。
※本記事は、2020年6月17日時点の医師個人の知見に基づくものです。
ウイルスの特徴や感染経路については、さまざまなことが分かってきています。まず、ウイルスの特徴については、1人の感染者の濃厚接触者のうち実際に感染するのは2割の人で、8割の人には感染しないということが明らかになっています。つまり、半数以上の確率で感染者に接触しても感染しないということです。ただし、どんな人が感染してしまうのか、どんな条件で感染してしまうのかといった感染の特徴については現時点でも明らかになっていないため、誰もが感染の可能性を考え、引き続き対策を行っていくことが大切です。
なお、今後の生活では“人と人との身体的距離を取る”“マスクの着用”“手洗い・手指の消毒”などを引き続き慣行していく必要があります。人と人との身体的距離としては、医学的研究によれば、2m程度の間隔を取ることが望ましいといわれています。身体的距離が1mの場合と2mの場合、1mのほうでは感染リスクが2倍高いとの研究があります。
また、緊急事態宣言解除後も飛沫感染を防ぐためにマスクを着用し、咳エチケットを遵守してください。咳エチケットとは、咳やくしゃみを手ではなくマスクやハンカチ、洋服の袖などで抑えることをいいます。
さらに、接触感染予防として小まめな手洗い・手指の消毒も大切です。帰宅後や食事前、トイレの後などせっけんを使用した丁寧な手洗いを行うようにしましょう。また、お店や病院など複数の人が集まるところに入る前は、消毒液で手指の消毒を行いましょう。
2020年5月25日をもって、全都道府県で緊急事態宣言が解除されました。しかし、新型コロナウイルスが我が国から完全になくなったというわけではありませんので、今後も感染予防を心がけることを忘れてはなりません。
とはいっても、緊急事態宣言の期間中のように多くの生活を犠牲にして、引き続き外出の自粛を続けていくことは困難です。そのため今後は感染のリスクを減らしながら、いかに生活範囲を広げていくかを模索していくことになるでしょう。
すぐにこれまでどおりの生活を再開することは危険ですが、リスクが高い場所をなるべく避けたうえで生活範囲を徐々に広げていくことは可能と考えます。また、スポーツジムや飲食店などリスクが高いと考えられる場所ではリスクを減らすための試行錯誤を行いながら、徐々に営業を広げていくことが大切です。実際、さまざまな業種で新型コロナウイルス対策としてガイドラインが作られるなど工夫が行われています。
医療機関においても、これまでの経験を踏まえて第2波に備えたさまざまな対策が行われています。なかでも今回は流行の早期察知と検査の拡充についてお話します。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、都道府県から感染者のための病床確保が指示されることがありました。病床を空けるためには現在入院している患者さんを転院させるなどの準備が必要で、最短でも2週間程度の期間がかかります。そのため、各医療機関は都道府県や自治体などと協力し、感染拡大をなるべく早く察知して動き出せるように対策が講じられています。
検査についてもさまざまな工夫が行われています。これまでの経験から検査が必要な状況に関する知見が積まれてきたため、医師が検査を必要としたときに速やかに検査ができる環境作りが行われています。これまでの検査では、鼻咽頭の拭い液が使用されていましたが、今後は唾液を使用した検査ができるようになるため、検体採取時の医療従事者への感染リスクも下がり、よりスムーズに検査ができるようになると期待されます。
主な内容としては、前述した身体的距離、マスクの着用、手指の消毒の慣行が挙げられます。これらの生活様式に慣れていただくことで、感染リスクが下がることが期待されます。厚生労働省が公表している新しい生活様式の実践例は、以下でご覧いただけます。
【厚生労働省】新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました
また、厚生労働省の実践例には記載されていませんが、医師会としては新しい生活様式として禁煙を実施していただきたいと考えます。これまでの新型コロナウイルス感染症患者の特徴や治療の状況からみると、喫煙者、特にヘビースモーカーの方の重症化率は高く、治療を行っても明らかに治りが悪いといわれています。そのため、現在喫煙習慣のある方には、新型コロナウイルス感染症の流行を機に禁煙をしていただきたいと思っています。
対面で会議を行う場合には、身体的距離を取り、真正面ではなく斜め向かい側に着席するなどの工夫をするとよいでしょう。また、室内の換気を十分に行うことも肝要です。なお、緊急事態宣言中は多くの企業でインターネットを活用したWEB会議が取り入れられ、その実用性が立証されてきました。そのため、今後もできる限りインターネットを活用したWEB会議を取り入れていただきたいです。
飲み会に関しては、飲食店がさまざまな対策を行っています。入店前の体温チェックや手指の消毒などは、感染防止を意識して必ず協力してください。また、飲み会となるとアルコールが入ることによって感染予防意識が薄れ、大声を出して飛沫を飛ばしてしまったり、身体距離がいつもより近くなってしまったりすることが懸念されます。そのため、食事の間はなるべく話さず、マスクをしてから会話をすることや、着席時に距離を取り真正面に座らないことなどを意識してください。
手指の消毒は必ず入店時に行うようにしましょう。消毒液を手に出したら幅広く両手になじませ、乾燥するまで時間をかけてよく揉み込むことが大切です。
運動習慣を身につけることは感染を防ぐ体作りにおいても効果的なので、ぜひ運動をしていただきたいです。以下では、屋外で運動する際の注意点とスポーツジムなどの屋内で運動する際の注意点をお伝えします。
飛沫感染を防ぐために身体的距離を取ることが大切です。ウォーキングやランニングを複数人でするときは、あまり人数が増えすぎないよう、少数人で行うようにしましょう。また、研究によれば、ウォーキング・ランニング中の飛沫は進行方向に向かって縦方向に後ろに飛んで行きやすいといわれています。そのため、縦に並んで走行するときは、前の人との距離をウォーキングでは5m程度、ランニングでは10m程度空けるようにしましょう。一方、横に並んで走行するときは、横の人との距離は2m程度で十分と考えられています。
飛沫感染を防ぐための身体的距離・換気のほか、接触感染を予防するための機器の消毒などが必要です。新型コロナウイルス感染症はスポーツジムで感染拡大する事例が散見されました。これは、スポーツジムではエアロビクスなどで大きな声を出すことや運動によって呼吸が早くなることによって、感染者の飛沫から多くのウイルスが放出されるほか、感染していない人も運動によって呼吸回数が増え、室内の空気を多く吸い込むためと考えられています。また、スポーツジムに設置された運動機器は不特定多数の人が触れるため、接触感染のリスクも高いと考えられます。そのため、飛沫感染を予防する観点から、運動機器同士の距離を空け、間に透明のカーテンのようなものを設置するなど飛沫が飛ぶことを予防するほか、一度に屋内に入る人数を制限し、小まめに換気を行うなどの対策を行いましょう。また、接触感染を予防する観点から、運動機器の定期的な消毒を行うようにするとよいでしょう。利用者は、スポーツジムの指示に従って感染予防を行い、身体的距離が近づきすぎないように注意しましょう。
手洗いにかける時間と手洗い後の水気の拭き取り方法にご注意いただきたいです。
まず手洗いにかける時間ですが、ウイルスを取り除くことを意識し、洗い残しがないように十分な時間をかけて行っていただきたいです。十分な時間をかけて手を洗うためには、せっけんの使用が有効です。せっけんを使用して手洗いをすることのメリットには、もちろんせっけんそのものに洗浄力があるということも挙げられるのですが、それに加え、せっけんを泡立て、その泡で手全体をこすり、ぬるつきが完全になくなるまで流水で流すという一連の作業に、ある程度の時間がかかることも挙げられます。
次に、洗い終った手の水分は必ず拭き取るようにしてください。もっとも理想的なのは、使い捨てのペーパータオルで拭き取り、都度処分することです。ペーパータオルの用意がないときは、清潔なタオル・ハンカチでも構いません。ただし、タオル・ハンカチを使用する場合は、本人だけが使用するようにして、複数人で使い回すことのないようにしましょう。
まれに、「手を洗った後は消毒液で消毒しなければいけませんか?」と質問をいただくことがありますが、手洗いと消毒液による消毒はどちらかを行えれば十分です。手が洗える場合は手洗いをし、手が洗えない環境では消毒液を利用するようにしましょう。
外出先から自宅へウイルスを持ち込まないという意識が大切です。自宅に到着したら、玄関に荷物をおいてすぐに手を洗うようにしましょう。また、満員電車に乗った場合などは、衣服やバックにウイルスが付着している可能性もあります。可能な限り洗濯をするなどの対策を取るとよいでしょう。
はい。マスクは引き続き着用してください。一時はマスクの受給がひっ迫し、なかなか手に入らないという状態になりました。しかし、今は供給が安定し手に入りやすくなったほか、価格も安定してきました。適切な量を購入し、着用してください。
また、これから夏に入るとマスクを着用することによる熱中症のリスクが懸念されます。そのため、マスク着用時も水分補給をこまめに行い、エアコンを活用するなど熱中症対策を行ってください。
布マスクにはメリット・デメリットがあるということを理解して使用してください。メリットは洗って何度でも使用できることと、マスクを着用しないよりは感染予防の効果があるということです。デメリットは、不織布製のサージカルマスクよりは感染予防の効果が低いということです。
感染リスクの高いところではサージカルマスクを利用し、そうでもないところでは布マスクを繰り返し使用するなどの工夫をして使うとよいでしょう。
換気をすることによって、ウイルスが室内に蔓延することを予防できます。換気の際は、室内を風が通るように2方向の窓を開けましょう。また、夏はエアコンを使用するため、室温をコントロールするために窓を閉め切りがちですが、換気のために小まめに窓を開けることを意識してください。
消毒に関してはご家庭やオフィスなどでは、よく触る部分の拭き取り消毒を行うことが望ましいです。近年は空間消毒用の消毒液もありますが、空気中に消毒液を吹きかけることは目や呼吸器、皮膚へ刺激を与え、人体に悪影響を及ぼす可能性がありますので、控えましょう。
睡眠習慣には個人差があるため一概にいうことはできませんが、十分な睡眠時間を確保することを心がけてください。寝不足を感じる場合は、睡眠時間を増やす、昼寝をするなどの工夫を検討しましょう。
また、仕事などの都合で実践が難しい人もいると思いますが、可能な限り24時前に就寝することを心がけると、体調は整いやすくなります。人間は明るさに対して体内時計が作られており、暗くなると眠くなり、明るくなると目が覚めるようにできています。この理想的なリズムを作ることが、感染症にかかりにくい体作りにつながります。
食事は栄養バランスを整えるため、偏りなくさまざまな食材を食べることを意識しましょう。また、摂取量が多くなりすぎないように腹八分目を目指すようにしましょう。
運動は1日の時間数よりも、少しずつでも毎日継続することが大切です。たとえば、スクワットなどは短い時間で足腰を鍛えることができるため、継続しやすいと考えられます。高齢の方であればスクワットを数回行うだけでも、感染症にかかりにくい体作りだけでなく、フレイルの予防につながります。フレイルとは加齢によって心身が老い、生活の質が落ちてしまうことで、健常から要介護へ移行する中間の段階をいいます。
私たちは新型コロナウイルスとまだまだ付き合っていかなければなりません。しかし、ここ数か月でウイルスの特徴や感染経路などについてさまざまなことが分かってきたため、適切な対策につなげられるようになってきました。すぐに元の生活に戻ることは難しいかもしれませんが、身体的距離、マスクの着用、手洗い・手指の消毒などを生活に組み入れて徐々に生活範囲を広げていくことを意識しましょう。くれぐれも、感染リスクの高いところに無防備で行かないようにしてください。
新型コロナウイルス感染症では感染者の20%が肺炎になり、5%が重症化すると考えられています。そのため、感染者の数が減れば、肺炎になる方の数も重症化する人の数も減らすことができます。生活の制限があることによって窮屈を感じることもあるかもしれませんが、対策を行ったうえで前向きに生活していただきたいと考えます。
釜萢 敏 先生の所属医療機関
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