日本人にとって、がんは非常に身近な疾患といえるでしょう。高齢化が進行する近年では、がんの罹患数、死亡数は増加傾向にあります。なかでも、肺がんは死亡率の高いがんのひとつです。
肺がんは昔から喫煙が最大のリスクファクター(疾患を引き起こす危険因子)であるといわれてきました。しかし、筑波大学附属病院の佐藤 幸夫先生によると、非喫煙者の肺がん患者さんが増加しているそうです。それはなぜなのでしょうか。
肺がんの診療と研究に長く携わっていらっしゃる佐藤 幸夫先生に、昨今の肺がんの動向についてお話しいただきました。
2017年現在、日本では、2人に1人はがんに罹患し、3人に1人はがんで亡くなるといわれています。高齢化の進行に伴い、がんの罹患(患者)数、死亡数は増加傾向にあり、将来的には2人に1人はがんで亡くなる時代がくるとさえいわれています。
なかでも、死亡数の多いがんが、肺がんです。
肺がんは、2017年現在の日本において、男性では胃がんに次いで2番目に罹患数の多いがんです。女性では、乳がん、大腸がん、胃がんに次ぐ4番目に罹患数の多いがんであることがわかっています。
一方、死亡数をみると、男性では肺がんを原因に亡くなる方が最も多く、女性でも2番目に死亡数が多いがんになっています。
昔から、肺がん発症の可能性を高めるリスクファクターと考えられているものに喫煙があります。喫煙と肺がんによる死亡との関係をみると、約30年ものタイムラグがあるといわれており、喫煙の影響による肺がんで死亡に至るのは、喫煙を始めてからおよそ30年後であるといわれています。
また、男性の場合、喫煙の習慣があったとしても、禁煙をすれば肺がんを発症するリスクは半分程に減るといわれています。一方、女性は禁煙をしても喫煙習慣によって発生したリスクは、なかなか元に戻らないことがわかっています。
その結果をみると、アメリカでは、喫煙率が減少し始めてから、30年程遅れて肺がんの年齢調整死亡率(人口構成を加味した死亡率)も並行して減少しています。
一方、日本の結果をみると、喫煙率が大きく減少しているにもかかわらず、肺がんの年齢調整死亡率は微々たる変化しかしていないのです。喫煙を主な原因とするならば、アメリカ同様、喫煙率の低下と並行して肺がんの罹患率が減少するはずです。このような日本の疫学データは、肺がんの発症に、喫煙以外の要因があることを示しているといえるでしょう。
近年、肺がんのなかでも、非喫煙女性の腺がん(腺組織と呼ばれる肺の上皮組織から発生する肺がん)が増加しています。患者さんの年齢は50代以上が多く、60代、70代で最も多い印象があります。
ではなぜ、女性の肺がん患者さんが増えているのでしょうか。これは未だ明確にはなっていませんが、いくつかの説があります。その一つは、女性ホルモンの影響です。初潮が早い女性のほうが遅い女性よりも2倍以上肺がんになりやすく、さらに、閉経が遅い女性のほうが肺がんに罹患しやすいという研究結果が発表されているのです。
これは、女性ホルモンが分泌されている期間が長い女性のほうが肺がんになりやすいことを意味しています。女性ホルモンの一つであるエストロゲンという物質が発がんに関わる遺伝子に作用するために、肺がんの発症につながることが解明されてきています。
また、このエストロゲンには喫煙との相乗作用が認められており、喫煙習慣のある男性と比較して、喫煙習慣のある女性は、より肺がんを発症しやすいともいわれています。
女性の肺がんにみられる特徴として、腺がんが多発するケースがあることが挙げられます。このようなケースでは、再発を繰り返したり、同時性・異時性に腺がんが多発してしまうのです。
近年、喫煙以外の肺がんのリスクとして注目されている要因が、大気汚染です。
WHO(世界保健機構)は、2013年に大気中のPM2.5に発がん性があることを認定しました。微小粒子状物質(PM2.5)とは、炭素や硝酸塩、硫酸塩などを主な成分とする小さな粒子のことを指します。大気中に浮遊し、一定以上体内に取り込まれると、健康に影響が現れるといわれています。
このPM2.5の量は、地域によって大きく異なります。たとえば、北米にはPM2.5が比較的少ない一方、中国やアジアでは非常に高い値で観測されています。特にPM2.5の高い値が認められている中国では、2017年現在、直近の30年で465%肺がんの死亡率が増加しています。
日本でも人口密度の高い東京等でPM2.5が高い値で観測されていることに加え、中国から偏西風に乗って流れてくるPM2.5の影響が大きく、肺がん発症の原因となっている可能性があり、注意が必要であるといわれています。
少し話は変わりますが、大気が人の健康に及ぼす影響を示す、ある研究をご紹介します。南極越冬隊に参加した我々のグループの医師が、興味深い研究を行いました。この研究では、南極越冬隊の白血球数を継続的に計測していきました。
白血球数は、炎症を示す指標になります。たとえば、風邪や肺炎によって体内で炎症が起きると、白血球数は増加することがわかっています。
PM2.5の特徴は、粒子が非常に細かいために肺の奥深くまで吸い込まれてしまうことです。肺の奥深くには、肺胞(はいほう)と呼ばれるガス交換をする小さな袋があります。肺胞にPM2.5が取り込まれると、それが刺激となり、全身性の炎症が引き起こされ、白血球数が増加することがわかっています。
南極は日本の100分の1程度の量のPM2.5しか観測されないような、ほぼ大気汚染がない場所です。大気汚染がほぼない南極で過ごすうちに全身性の炎症が軽減し、白血球数が減少していきました。
このように、大気の質は人の健康に大きな影響を及ぼすことが、この研究からわかるのではないでしょうか。私たちは、日々体内に取り込む大気から大きな影響を受けているのです。
肺がんの早期発見・早期治療に向けた取り組みに関しては、記事2『肺がんの早期発見・早期治療に向けた取り組み』をご覧ください。
筑波大学医学医療系 呼吸器外科学 教授
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