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認知症に間違われやすい神経発達症:高齢の方のADHD

認知症に間違われやすい神経発達症:高齢の方のADHD
佐久田 静 先生

近畿大学医学部 精神神経科学教室 医学部講師

佐久田 静 先生【監修】

目次
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近年、従来の認知症の枠組みだけでは説明のつかない症状の背景に、未診断の神経発達症(発達障害)が存在することが明らかになりつつあります。この記事では、神経発達症の1つである注意欠如・多動症(ADHD)と認知症の違いや適切な治療について解説します。

👉 このパートをまとめると
近年、高齢の方でも神経発達症と診断される機会が増えています。加齢に伴う認知機能や環境の変化によって、それまで補えていた発達特性が目立つようになるためです。認知症と間違われやすいため、適切な診断と治療を行うことが重要です。

神経発達症のうち、注意散漫や多動、衝動性などの特性を示すADHDの方は、通常児童期に症状が顕在化すると考えられています。しかし近年、児童期に症状が現れていた頃にはまだ世の中にADHDという概念がなかったため診断されず、その後ご自身の成長や教育、周囲のサポートなどによって特性を補いながら、社会生活を過ごされてきた高齢の方の存在が明らかになってきました。その方々の脳の機能が加齢に伴って低下し、さらにそのほかの原因が組み合わさることで、高齢になるまでうまくやり過ごしてきた不注意症状が、生活上の問題として表面化する可能性があります。認知症とADHDは物忘れや注意不足などの症状が似ており、認知症が疑われた患者さんの約2%は、ADHDと診断されたという報告もあります。

ADHDと認知症は“物忘れ”という行動の面では共通していますが、その背景には違いがあります。ADHDは生まれつきの脳の特性のため、子どもの頃から失くし物や予定を忘れるなどの症状がみられることが特徴です。記憶はあくまで年齢相当であり、不注意によって物忘れが生じているため、ヒントがあれば思い出すことが可能です。一方、脳が後天的に変性する認知症の場合、以前は忘れ物や予定を忘れることのなかった方が、約束を忘れたり同じことを繰り返し聞いたりするようになります。体験したこと自体の記憶が失われるため、ヒントがあっても思い出すことが困難です。また、ADHDとは異なり、認知症は徐々に症状が進行していきます。

高齢の方で注意力の低下や物忘れがみられる場合、まずは認知症やてんかんなどの病気を調べるため、記憶を中心とした認知機能検査やMRI検査・CT検査などの画像検査、脳波検査などが行われます。50〜60歳代前半の若い方や、就労されている方に対しては、詳細に認知機能を調べるためにウェクスラー成人知能検査第4版(WAIS-IV)が実施される場合もあります。これらの検査で、認知症が積極的に疑われない場合に、ADHDを含む神経発達症も鑑別診断として検討されます。

ADHDの診断では、現在の症状だけでなく、発達歴を含めた幼少期の情報が重要です。しかしながら高齢の方では幼少期の情報を親から得ることは事実上不可能であるため、配偶者や兄弟姉妹、子どもなどから、若い頃の本人の様子を確認することが診断の助けになります。

青年期のADHD診断にはASRS、DIVA、CAADID、CAARSなどの評価法が参考として用いられます。しかし、これらは主に青年期の成人を対象として開発されたものであること、長時間の検査で高齢の方には負担が大きいこともあり、高齢の方にこれらの評価を行うことは一般的ではありません。

👉 このパートをまとめると
高齢のADHD患者さんに対する治療では、まず環境調整や生活指導などの非薬物療法を用いて、生活における困りごとの改善を目指します。副作用の観点から、高齢の方にADHD治療薬を用いることは一般的ではありません。

ADHD患者さんに対し、日常生活や社会生活を送るうえで困っていることに応じて個別に治療を行うため、環境整備や生活指導などが行われる場合があります。

まずADHDの一般的な症状や対処法について理解を深めます。環境の変化や仕事量の増大、心労など、精神的負荷が増大したことが不注意症状の顕在化につながっていることも少なくないため、仕事や生活全体の見直しが必要となります。そのうえで、生活や仕事でこなすことに優先順位をつけ、周囲のサポートが得られるように環境を整えます。

ADHDに対しては、メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシンなどの薬物療法が選択肢となります。しかし、高齢の方では持病や併用薬が多いことに加え、仕事量の見直しや生活環境の調整などの非薬物療法によって症状が軽減することが多いため、薬物療法の適応は慎重に判断されます。

メチルフェニデートは、高血圧心不全心筋梗塞などの循環器疾患や脳梗塞の既往、緑内障のある方には使用できません。また本来の目的ではない使用、転売などを防ぐため、登録された医師・医療機関および薬局による厳格な管理体制のもとでのみ処方・調剤が認められています。

グアンファシンは、房室ブロックなどの心電図異常がある方には使用できません。また、血圧低下や徐脈などの副作用があるため、児童や青年期の患者さんにおいても定期的な血圧や脈拍数の測定が行われます。

アトモキセチンも、緑内障や重篤な循環器疾患のある方には使用できず、排尿障害(排尿困難)などの副作用がみられることがあります。

高齢の方では循環器疾患などの併存症が多く、副作用のリスクも高くなるため、ADHDに対する薬物療法を新たに開始するかどうかは極めて慎重に判断されます。

Q. 70歳代になってから初めて神経発達症と診断されることはありますか?

A. はい、あります。軽度認知障害(MCI)*認知症を疑われて受診された高齢の方が、詳しい検査によってADHDと診断される場合があります。認知症、ADHDはいずれも適切な診断が行われたうえで、ご自身に合った治療や支援を受けることが大切です。

*軽度認知障害(MCI):認知症の手前の段階であり、認知機能の低下はあるものの、日常生活への支障はみられない状態。

Q. どこに相談すれば、神経発達症を含めた精密な検査が受けられますか?

A. まずはかかりつけ医に相談しましょう。かかりつけ医がいない場合は、お近くの精神科や心療内科、老年内科、脳神経内科などを受診してください。近年は、物忘れ外来や発達障害外来を掲げている医療機関もあります。受診時は、ご自身の子どもの頃の様子や、若い頃からの性格上の特性、現在の生活における困り事などをまとめたメモを持参すると、鑑別診断の助けになります。また、ご家族から話を聞く場合もあります。

高齢の方で“物忘れ”が増えてきたときに、認知症だけでなく神経発達症が背景に存在する場合があります。適切な鑑別診断と、特性に合わせた治療や支援を受けることで、ご自身とご家族の生活の質(QOL)を改善できる可能性があります。

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