愛知県医師会が医療従事者を対象として2月14日に開催した新型コロナウイルスワクチンに関する研修会は、講演に続いて質疑応答の時間も設けられ、講演者である米国国立研究機関博士研究員で、新型コロナウイルス感染症に関する情報提供サイト「こびナビ」の副代表の峰 宗太郎先生と、同じくこびナビ副代表の木下 喬弘先生にさまざまな質問が寄せられました。本記事ではその内容をまとめています。
木下先生:デメリットとしては、当然、新型コロナウイルス感染症に感染するリスクが挙げられます。今回承認されたファイザー社・ビオンテック社製ワクチンの発症に対する有効性は95%と非常に高いものです。特に感染リスクの高い医療現場の最前線で働いている医療従事者の方々にとっては、接種しないということは新型コロナウイルス感染症発症のリスクになると考えます。
アナフィラキシーなどの副反応が心配という方も多数いらっしゃるかと思いますが、接種しなかった場合の発症リスクについてもご理解いただいたうえで、有効性と安全性などを含め現時点で分かっている医学的な情報をきちんと把握し、接種の判断をしていただければと思います。
峰先生:そのほかに考えられるデメリットとして、心理的な負担があります。ワクチンを接種しない場合、接種した場合と比較して発症リスクは高まるため、新型コロナウイルス感染症の流行が続く限り、発症を恐れ続けるということも考えられるでしょう。
木下先生:臨床試験のなかでワクチン接種群とプラセボ群(生理食塩水を投与した群)の発症人数を比較したところ、ワクチン接種群のうち新型コロナウイルス感染症を発症したのはプラセボ群の20分の1程度でした。
単純計算でも、現在日本において1日2000人ほどの感染者が出ているとすると、全員がワクチンを接種した場合には1日の感染者数は100人程度まで抑えられることになります。
これに集団免疫(人口の一定以上の割合がウイルスなどによる免疫を得ることで、感染が広まりにくくなる状態)の効果も加わるとさらに感染者が減るため、いずれ感染対策を緩めた生活に戻ることができると考えられます。
木下先生:妊娠中や授乳中、もしくは妊娠希望の方でも、ワクチンの接種は可能とされています。今回行われた疫学研究では、妊娠中の方や授乳中の方は含まれていなかったため、安全性などに関するデータは2021年2月現在、存在しません。しかし、ワクチンのメカニズムから、ワクチンの成分が乳腺組織に移行することはないとされています。また、仮に成分が乳腺組織に移行した場合でも胎児が口から吸収することによる安全性の問題は特にないと考えられています。そのため、授乳中のワクチン接種も特に制限はされていません。
峰先生:基本的に生ワクチン(ウイルスや細菌の毒性を弱めたものを原材料とするワクチン)以外において、接種後すぐに妊娠した方、あるいは妊娠中の方に影響することはほとんどありません。これは、胎盤がフィルターの役割を果たしているためです。また、ワクチンの成分などが分解される速度を考えても、母乳を介した影響もほぼないと考えてよいでしょう。
むしろ、インフルエンザや百日咳のように、ワクチンによって新型コロナウイルスの抗体ができ、それが母乳や胎盤から移行することによって新生児が守られる可能性も動物実験などから示唆されています。そのため、今後は妊娠中や授乳中の方へのワクチン接種を推奨するという可能性もあります。
また、精液や唾液からは一切ワクチンの成分が検出されないという実験結果があるため、妊娠を希望される方のパートナーに関しても接種していただいて問題はありません。
木下先生:米国CDC(疾病対策センター)は、ファイザー社・ビオンテック社製ワクチン(mRNAワクチン)の場合、以下の方が接種不可であるとしています。
そのほか、別のワクチンや注射でアナフィラキシーなどを起こしたことのある方は接種に際して注意が必要ですが、決して接種不可というわけではありません。花粉症やぜん息、食物アレルギーの方などについても、当然接種が可能です。アレルギー歴のある方は、接種後30分、医療機関で経過観察をすることが大切です。
木下先生:化学療法や免疫療法を行っている方についても、基本的に接種していただいて問題ありません。こうした方に対する懸念として挙げられるのは、安全性よりもむしろ有効性の点だと考えられています。有効性の点は今後データが蓄積されることで分かってくるのではないかと思います。
峰先生:ワクチンによって抗体を獲得した際、その抗体が本来感染を抑えるはずのウイルスに対して、より感染しやすくしたり、感染した際の症状を強くしてしまったりする「抗体依存性感染増強現象(ADE)」が起こることがあります。
しかし、今回の新型コロナウイルスワクチンの開発においては、当初からその可能性を念頭に開発が行われており、いずれの新型コロナウイルスワクチンにおいても、開発段階でそのような現象は一切確認されていません。
また、この現象が起こる可能性があるかどうかを判断する1つの目安となる細胞のはたらきをみても、現状、過剰に心配する必要はないと考えられています。
峰先生:現在注目されている3つの変異ウイルス(イギリス型、南アフリカ型、ブラジル型)に対しては、それぞれ現行のワクチンで効果があるかどうか、実験室レベルで検討がなされています。
ブラジル型については現在検討中ではありますが、イギリス型、南アフリカ型の変異ウイルスについて、ファイザー社・ビオンテック社製のワクチンが一切効かなくなるという事実は確認されていません。
木下先生:効果が下がるというデータが出ていることは確かですが、元々有効性が95%と非常に高いため、変異ウイルスにまったく効果がないということは考えにくいです。
峰先生:加えて、各社、変異ウイルスに対応した新しいワクチンもすでに開発を終えているという事実もあります。仮に現在流通しているワクチンが変異ウイルスに効かないという状況になれば、また新たなワクチンが設計される可能性もあるため、今後もその動向には注目しておくとよいでしょう。
木下先生:やはり推奨されているとおりに接種することが望ましい一方で、ワクチンの供給や個々人の予定の兼ね合いで厳密に21日後に接種することが難しいケースもあるのではないかと思います。アメリカでは遅くとも初回から6週までの接種がすすめられています。現実的な範囲で2回の接種を行ってください。
木下先生:ワクチン接種後も、現状行っているような感染対策は継続してください。その理由の1つが、ワクチンを接種したからといって絶対に感染しないというわけではないということです。ファイザー社・ビオンテック社製のワクチンに関して、発症に対する有効性は95%というデータがありますが、感染性をどの程度抑えるかというデータはまだ十分ではありません。
症状がない場合でも、実は軽度の感染を起こしており、医療現場で患者さんに感染させてしまうリスクもあります。こうしたことからも、やはりワクチン接種後も感染対策は十分にしていただければと考えています。
峰先生:新型コロナウイルスワクチンは、2回目の接種の際に発熱や倦怠感、頭痛など初回よりも強い副反応が出る傾向にあります。これらを考慮し、職場の方々での一斉接種は可能な限り避け、数名単位で接種を進めるのが望ましいでしょう。
また、副反応による発熱や倦怠感、接種部位の痛みなどがみられた場合、鎮痛薬や抗炎症薬などを使用してもワクチンの効き目に影響はありません。そのため、これらの副反応が出た場合には薬剤なども活用して症状を和らげてください。
今回の研修会は、愛知県医師会調査室委員会委員であり衆議院議員の今枝 宗一郎先生発案のもと、愛知県医師会の柵木 充明会長主催で実施されました。
研修会の模様は愛知県医師会のYouTubeチャンネル(https://youtu.be/rpDYTeo35CQ)から視聴することができます。
研修会の内容をまとめた記事は以下のとおりです。
峰先生ご講演「ワクチンの仕組みを知ることで安心感を」
木下先生ご講演「新型コロナウイルスワクチン 効果と副反応に関する理解深めて」
今回講演を行った峰先生、木下先生が副代表を務める「こびナビ(https://covnavi.jp/)」では、今回の研修で使用された資料をはじめ、新型コロナウイルス感染症に関する正確な情報を発信しています。こうした媒体も活用しながら、あらゆる情報が飛び交う状況下で、適切な情報を迅速に得ることが重要です。
CoV-Navi(こびナビ) 副代表
日本救急医学会 救急科専門医日本外傷学会 外傷専門医
2010年大阪大学卒。大阪の3次救急を担う医療機関で9年間の臨床経験を経て、2019年にフルブライト留学生としてハーバード公衆衛生大学院に入学。2020年度ハーバード公衆衛生大学院卒業賞"Gareth M. Green Award"を受賞。卒業後は米国で臨床研究に従事する傍ら、日本の公衆衛生の課題の1つであるHPVワクチンの接種率低下を克服する「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」や、新型コロナウイルスワクチンについて正確な情報を発信するプロジェクト「CoV-Navi(こびナビ)」を設立。公衆衛生やワクチン接種に関わる様々な啓発活動に取り組んでいる。
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