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乳がんの受診のきっかけになる症状とは? ~無症状の乳がんも存在することを知っておくことが重要〜

乳がんの受診のきっかけになる症状とは? ~無症状の乳がんも存在することを知っておくことが重要〜
岡本 直子 先生

戸塚共立第1病院附属サクラス乳腺クリニック 院長

岡本 直子 先生

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乳房は、母乳をつくる乳腺と脂肪組織からなり、乳がんは乳腺に発生するがんです。女性がかかるがんの中でもっとも患者数が多く、日本では年間およそ9万人(2017年時点)が乳がんと診断されています1)。また、2019年に乳がんで亡くなった方の数はおよそ1万5,000人で、女性のがんの中では5番目に死亡数の多いがんです2)

しかし乳がんは、患者数に対して死亡数が少ないこと、さらにステージ0~1の早期段階で発見された場合は90%以上の10年生存率が望めることからも、早期発見できれば比較的予後のよいがんといえます。

では、どのような症状がある場合に乳がんが疑われるのでしょうか。本記事では、乳がんの症状をテーマに、早期発見のためにできる対策について詳しく解説します。

乳がんの主な症状は、乳房のしこり(腫瘤(しゅりゅう))です。ほかにも、乳頭からの茶色い分泌物(血性乳頭分泌)、皮膚症状(皮膚のひきつれ・えくぼ症状・ただれなど)、乳房の変形なども挙げられます。

乳房の表面に近い部分にしこりができた場合には、手で触って気が付くことも多く、この症状をきっかけに乳腺外科を受診する方もいます。ただし、乳房の深い部分にしこりができた場合や、しこりが小さい場合には手で触っても気付かないことがあります。このように、無症状の乳がんも存在することを知っておくことが重要です。

乳房に痛みを感じた場合に乳がんを心配する方もいますが、乳房は基本的に、女性ホルモンの影響により何も異常がなくても痛みを伴うことのある臓器です。一方で、乳がんで生じるしこりは痛みを伴わないことが多いです。ただし、しこりが大きくなる過程で、その周辺が引っ張られることにより痛みを感じる場合はあります。したがって、乳房に痛みがあるかどうかは乳がんの有無とはあまり関連がないと考えましょう。

乳がんは自覚症状がない場合がありますが、前述のとおり、発生部位によっては自分で触ってチェックすることで、がんを発見できる可能性があります。

そのため、“定期的に乳がん検診を受けること”“次回の検診までに定期的にセルフチェックをすること”が非常に重要です。

がん検診には、集団全体の死亡率減少を目的として実施する国主導型の“対策型検診”と、人間ドックなど個人の死亡リスクを下げることを目的として行う“任意型検診”に大別されます。

乳がん検診にも対策型と任意型があり、問診、視触診、マンモグラフィ検査、超音波検査(エコー検査)などを行います。それぞれの検査の特徴などを理解し、自分に合った検診を受けることが重要です。どのタイミングでどのような検査を受ければよいか迷う場合などには、受診する医療機関に相談するとよいでしょう。検診の特徴は以下のとおりです。

対策型検診

対策型乳がん検診は、国民全体の死亡率減少を目的として実施されるものであり、公共対策として行われます。日本では自治体が行う住民検診に該当し、費用は無料または一部の自己負担で受けることができます。ただし、死亡率減少効果が確立した検査方法が選択されるため、40歳以上の女性を対象としたマンモグラフィ検査(隔年)が基本となります。自治体によっては対象年齢や検査内容が異なることがあるため、不明点があれば、各自治体の窓口に相談するとよいでしょう。また、マンモグラフィ検査は、乳房専用のレントゲンであるため、ごく少量ですが被爆を伴い、乳房を板で圧迫するため多少の痛みも伴います。

任意型検診

任意型乳がん検診は、対策型乳がん検診以外のものであり、人間ドックや職場検診など、受診形態はさまざまです。また、任意型乳がん検診は個人で選択するものであるため、40歳に満たなくても受診できるほか、検査内容に関してもマンモグラフィ検査や超音波検査(エコー検査)などから自由に選択することが可能です。ただし、任意の検診のため、費用は自己負担になります。

対策型検診では、2年に1回の検診を推奨していますが、早期発見のためには1年に1回の頻度で乳がん検診を受けるのがよいでしょう。そのため、対策型検診の対象者の場合、2年に1回の頻度で対策型検診を受けながら、対策型検診が対象とならない年は任意型検診を受けるとよいでしょう。

また、対策型検診の対象ではない方でも乳がんのリスクはあります。特に30歳以降から乳がんにかかる確率が高まるため、1年に1回のペースで任意型の乳がん検診を受けることが望ましいです。なお、人によって乳がん検診を受けるべき頻度は異なるため、検診の頻度について不安や疑問がある場合は、医師に相談するとよいでしょう。

セルフチェックは月に1回の頻度で、生理(月経)が終わってから1週間以内に行うようにしましょう。なお、閉経後の場合は毎月決まった日に行うとよいでしょう。なぜなら、乳房の状態は月経周期によって変動することもあるため、正確に症状に気付くためにも、毎月なるべく同じ条件でセルフチェックを行うことが望ましいとされているからです。

セルフチェックでは、鏡の前に立ち、頭の後ろで手を組んだ状態で自身の乳房の色や形を見ます。具体的には、くぼみ、ふくらみ、ただれ、変色、ひきつれがないか確認しましょう。

次に、親指以外の4本の指先で軽くなでるようにして、しこりの有無を調べます。“の”の字を書くようにして、乳房だけでなく(わき)の下も入念にチェックするようにしましょう。また、乳頭をつまんで血が混ざったような分泌物が出ないかも確認します。

最後に、背中の下に畳んだタオルや低い枕を入れて仰向けになり、乳房を触ってしこりを調べます。

セルフチェックを定期的に行うなかで、普段の自分の乳腺はどのように触れるか、乳房の皮膚の状態を把握しておくことが大事です。以前触れないものが触れるなど、気になる症状がある場合は乳腺科・乳腺外科外来を受診しましょう。

乳がんの患者数は増加傾向にあり、今では9人に1人がかかるがん(2017年時点)といわれています1)。しかし、乳がんは早期発見ができれば、根治を目指せるがんです。乳がんの主な症状は乳房に生じるしこりのほかにも、さまざまな症状がありますが、症状が見られない場合でも、検診がきっかけで乳がんが発見されるケースは少なくありません。そのため、早期発見のために日頃のセルフチェックや、症状がない段階での定期的な乳がん検診を心がけるようにしましょう。

参考文献

  1. 日本医師会ウェブサイト.知っておきたいがん検診 乳がん検診(閲覧日:2020年10月19日)
  2. がん情報サービスウェブサイト.乳がん(閲覧日:2020年10月19日)
  3. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(閲覧日:2020年10月19日)
  4. 人口動態統計月報年計.厚生労働省.2019年(閲覧日:2020年10月19日)
  5. ピンクリボンフェスティバルウェブサイト.「最新がん統計」と「最新人口動態統計」について発表がありました(閲覧日:2020年10月19日)
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