新型コロナウイルス感染症とは、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に感染することによって起こる感染症です。日本でも感染者の増減が繰り返されている一方、新型コロナウイルスワクチンの接種も広がっており、発症・感染・重症化の予防に役立っています。しかし、ワクチンの効果は時間の経過とともに低下する可能性があるほか、コロナウイルスは変異を繰り返すウイルスであるため、変異株に対する有効性については変化に応じて確認が進められています。
感染すると、時に重症化することもあるため、症状についてよく理解し、感染が疑われる際には適切な行動を取ることが大切です。このページでは、新型コロナウイルス感染症の症状として2022年10月現在分かっていることについてご紹介します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状は、軽症の場合と重症化した場合に分けることができます。初期症状は軽症で、発熱や咳などかぜのような症状がみられることがありますが、重症化すると肺炎を発症します。ただし、感染した方全員に症状がみられるとは限らず、無症状で経過する例もあります。国立感染症研究所のデータからは、発症する場合、オミクロン株では約3日で発症することが多く、約10日で99%以上の方が発症していると報告されています。
新型コロナウイルス感染症の初期症状としては、鼻水や咳、発熱、軽い喉の痛み、筋肉痛や体のだるさ(倦怠感)など、かぜのような症状が挙げられます。特に、37.5℃程度の発熱と強い体のだるさを訴える方が多いという特徴がありますが、発熱がなく体のだるさなどの症状だけが現れる方もいます。現在流行しているオミクロン株の症状の特徴としては、比較的無症状の方や軽症で治癒する方が多く、2~3日の発熱の後自然軽快していくことが挙げられます。ただし、これまでの新型コロナウイルス感染症と同様に4日以上発熱が続くこともあるため、症状が続く場合には医療機関の受診を検討しましょう。
また、“においが分からない”“味が分からない”など、嗅覚・味覚障害が起こる方もいることが分かっており、これらの症状は女性や子どもに生じやすいというデータもあります。そのほか、人によっては鼻づまりや鼻水、頭痛、痰や血痰、下痢などが生じることもあります。
初期症状は平均して7日間程度続くといわれていますが、症状が長引いた場合でも重症化しなければ次第に治っていきます。重症化せず軽快する方の割合は、症状が現れた方のうちおよそ80%と考えられています。また、オミクロン株はデルタ株と比較して重症化しにくい可能性があると考えられていますが、高齢者や基礎疾患を持っている方は引き続き注意が必要であることに変わりません。
オミクロン株が主流になってから、新型コロナウイルス感染症の症状(臨床像)に変化がでてきました。実際に札幌市の約8万人の診断・登録時点の年代別の症状頻度*は、上の表のようになっています。ここで1番多くみられた症状は咳で、順に喉の痛み、頭痛、発熱、鼻水でした。このように、オミクロン株は比較的軽症の方が多い傾向にありますが、新型コロナウイルス感染症自体は“人工呼吸器が必要な肺炎”など重症化する可能性のある感染症です。一方で、ワクチン接種や治療薬といった医療の進歩により、重症化する方の割合は大きく減少しています。今後も変異株の出現とその特徴の変化に注意が必要ですが、持続的に存在し続ける感染症となりつつあるなか、上手に新型コロナウイルス感染症と付き合っていくことがますます重要となります。そのための1つの知識として、症状に対処するセルフケア(自分自身で対処する)のアプローチができるようになることが大切です。
*オミクロン株BA.5がBA.2の割合を越えた7月11日~9月20日の期間に陽性となった患者で、性別・年代・居住区・ワクチン接種回数が漏れなく入力されている88,602人のデータ。男性は42,777人、女性は45,825人で、ワクチン接種回数は、4回接種3,654人、3回接種32,060人、2回接種18,521人、1回接種478人、未接種33,889人。
新型コロナウイルスへの感染が疑われるような症状があった場合、まずは会社や学校を休み、外出を控えて自宅で安静にしましょう。発熱のある間は外出を控えたうえで毎日体温を測定し、どのくらいの熱が何日程度続いたかを記録しておくとよいでしょう。なお、以下の条件に当てはまる方はかかりつけ医、あるいは地域の“受診・相談センター”に問い合わせ、係員の指示に従って病院の受診などを行いましょう。
相談の目安は症状のある方の年齢や持っている病気などによっても異なります。高齢の方や基礎疾患のある方、妊娠している方などは特に注意し、比較的軽い症状であっても相談を検討しましょう。
*高齢者、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患<慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)など>など)がある方、透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方、妊娠中の方
症状が4日以上続く場合は、必ずかかりつけ医か地域の“受診・相談センター”に問い合わせをしましょう。なお、子どもの場合は小児科の医師による診察が望ましいとされています。症状には個人差があるため、強い症状だと感じる場合はすぐに相談をしてください。病院の受診時にはマスクを着用するなどして感染の拡大防止に努めるようにしましょう。
また、においや味が分からなくなる嗅覚・味覚障害を感じた場合は、37.5℃以上の発熱やだるさ、息苦しさが4日以上続くことがなければ、ひとまず外出を控え、様子を見るようにしましょう。この時点では病院の受診も控えましょう。ただし、4日間以上の発熱、だるさ、息苦しさを伴う嗅覚・味覚障害がある場合は、かかりつけ医や地域の“受診・相談センター”へ問い合わせ、係員の指示に従って病院の受診などを検討しましょう。
また、発熱、だるさ、息苦しさなどの症状がないまま嗅覚・味覚障害が2週間以上続いた場合には、新型コロナウイルス感染症以外の病気が隠れている可能性があるため、耳鼻咽喉科の受診を検討しましょう。
2020年4月27日には、厚生労働省・新型コロナウイルス感染症対策推進本部より、無症状者・軽症者に対する“緊急性の高い症状”が発表されました。以下の症状に該当する場合は、新型コロナウイルス感染症が重症化している可能性が懸念されます。
これらの症状がみられた場合、宿泊施設で療養している場合は看護師へ、自宅で療養している場合には各地域の指示に従い、かかりつけ医や地域の“受診・相談センター”へ直ちに連絡するようにしましょう。
新型コロナウイルス感染症の初期症状が5~7日間で軽快せず重症化すると、肺炎を発症し、呼吸が苦しくなる、いわゆる呼吸困難の状態に陥ることがあります。また、肺炎だけでなく上気道炎や気管支炎など、ほかの呼吸器系器官にも炎症が生じるケースもあります。このように重症化する方の割合は、国内データでは2022年1~2月に新型コロナウイルスに感染して症状が現れた方のうち、50歳代以下では0.3%、60歳代以上では2.49%といわれています。そのほか、重症化した場合の特徴にはサイトカイン・ストームと呼ばれる全身性の炎症があることが指摘されています。これにより全身の血管の炎症が起こる場合があり、重症例では血栓症などの合併症も認められます。
ただし、新型コロナウイルス感染症が重症化し肺炎が生じても、半数以上のケースは症状に対する治療を行うことで徐々に回復します。一方、肺炎が悪化し重篤化すると急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や敗血症性ショック、多臓器不全、血栓症などが起こり、場合によっては死に至るケースもあります。
現在、どのような方が重症化しやすいかは十分に分かっていませんが、以下に該当する方はリスクが高いと考えられています。
また、当初は小児の重症化リスクは高くないと考えられていました。しかし、高齢者ほどではないものの、小児の中でも基礎疾患のある子どもや、年齢の低い乳幼児で重症化する傾向があることが指摘されています。インフルエンザと同様に高齢者だけでなく、乳幼児や妊娠中の方も重症化には注意が必要と考えたほうがよいでしょう。
なお、札幌市の重症・中等症割合比較詳細データを見ると、重症・中等症の割合がもっとも高かった第4波(2021年4月1日~6月30日)と比べると第7波(2022年7月1日~9月13日)は全年齢において1/32、60歳以上の高齢者では1/13まで減少していると報告されています。また、オミクロン株になってから若年成人で酸素が必要になる方は約2,000人に1人となっています。
感染するウイルスが異なります。インフルエンザはインフルエンザウイルスによるもので、新型コロナウイルス感染症は一般的なかぜのおよそ10~15%(流行期は35%)を占めるコロナウイルスの中でも新しい種類のコロナウイルスです。
インフルエンザの場合は、高熱や頭痛、関節痛・筋肉痛、体のだるさなどの全身症状が比較的急速に現れるのが特徴です。
新型コロナウイルス感染症では、発熱や咳などかぜのような症状が中心であるものの、インフルエンザのように全身症状(特に強い倦怠感)がみられることもあります。そのため、特に初期には症状だけでかぜやインフルエンザなのか、新型コロナウイルス感染症なのかを100%判断するのは困難です。
2020~2021年と2021~2022年の冬は、新型コロナウイルスに対する感染対策が強化されていたため、インフルエンザなど、これまでみられていた感染症が抑え込まれていました。しかし2022~2023年の冬は、(1)2022年4月後半からオーストラリアをはじめとする南半球諸国でインフルエンザ患者が増加して医療がひっ迫していること、(2)日本も海外からの入国が緩和されてインフルエンザウイルスが持ち込まれる確率が高いこと、(3)ここ数年インフルエンザが流行していないため日本全体の集団免疫が落ちていることなどから、インフルエンザの流行が懸念されています。そのため日頃の感染対策に加え、インフルエンザワクチンを接種することを検討しましょう。
また、南半球(ブラジル)では、インフルエンザワクチンの予防接種を受けていた方はそうでない方に比べて、インフルエンザだけでなく新型コロナウイルス感染症による重症化リスク・死亡リスクが減った(死亡率が17%減少)という研究*があります。詳細についてはいまだ明らかではありませんが、このような研究データからも特に生後6か月以上の方は冬を迎える前にインフルエンザワクチンを受けるように心がけるとよいでしょう。
*Inactivated trivalent influenza vaccine is associated with lower mortality among Covid-19 patients in Brazil
新型コロナウイルス感染症は都市部を中心に感染の拡大が起こっており、現在は従来のウイルスとは異なる変異株の感染が主流になってきています。一度感染・治癒した方が再感染した例も報告されているため、すでに感染を経験した方も引き続き対策を行う必要があります。
一方で新型コロナウイルス感染症の流行から数年が経過し、感染対策と社会経済活動を両立させる動きが活発になってきています。これにより、短期的に新型コロナウイルスと戦うという姿勢から、新型コロナウイルスと共に新生活様式を作り上げるという姿勢が重要になってきています。専門家会議からも以下のような新しい生活様式が提案されています。
このように、現在では感染対策を上手に緩めて“持続可能な感染対策”のもとで行動していくといった方向性に変わりつつあります。実際に現在流行しているオミクロン株は感染しても軽症であり、入院する方がとても少ないことから、2022年の夏は新たに強い行動制限などを行うことなく、必要に応じたマスク着用などを呼びかけるといったwithコロナの方針が進められてきました。現在も感染の増減は続いていますが、新型コロナウイルスに対する正しい理解のもとで行動することが大切です。
感染症コンサルタント 、北海道科学大学 薬学部客員教授、一般社団法人Sapporo Medical Academy(SMA) 代表理事
日本感染症学会 感染症専門医・指導医日本内科学会 総合内科専門医日本化学療法学会 抗菌化学療法指導医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
“良き医学生・研修医教育が最も効率的な医療安全”をモットーに総合内科をベースに感染症のスペシャリティを生かして活動中。感染症のサブスペシャリティは最もコモンな免疫不全である“がん患者の感染症”。「自分が実感し体験した臨床の面白さをわかりやすく伝えたい」の一心でやっています。趣味は温泉めぐり、サッカー観戦(インテルファン)、物理学、村上春樹作品を読むこと。 医療におけるエンパワメントを推進する法人を立ち上げ活動している。
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