乳がんは、日本国内で増加の一途をたどり、現在では日本人女性の9%が乳がんにかかるといわれるようになりました(2019年7月時点)。罹患率が高まる一方で、乳がんを早期に発見して適切に治療すれば、良好な経過が期待できるとも考えられています。乳がんの早期発見には、継続的な自己触診とともに、乳がん検診の定期的な受診が非常に重要となります。
今回は、乳がん検診について、戸塚共立第1病院附属サクラス乳腺クリニック*の岡本直子先生にお話を伺いました。
*2024年より馬車道ブレストクリニック 院長
日本における乳がんの罹患率は、1975年以降増加し続けており、今や11人に1人(9%)の女性が乳がんを発症する時代ともいわれています*。もっとも罹患率の高い年代は45~49歳、次いで65~69歳と、罹患率のピークが2回に分かれていることが特徴です。
かつては閉経前に乳がんを発症するケースが多いという特徴がありましたが、近年は欧米同様、閉経後に乳がんを発症するケースも増加しています。
※2014年時点のデータに基づいています。
乳がんは、ほかのがんに比べて、比較的予後(治療後の経過)が良好です。ステージ0または1の段階で乳がんが発見された場合は、90%以上の10年生存率が望めます。そのため、乳がんの早期発見を目指し、無症状の段階から乳がん検診を受けることが重要です。そして、もし、がんが発見された場合には、できるだけ早めに治療を開始することが重要です。自分自身の健康を守るために、年に1回程度、定期的に乳がん検診を受けていただきたいと考えています。
乳がんの発症には、エストロゲンという女性ホルモンの一種が深く関与していることが知られています。近年、日本の女性は、さまざまな要因により、エストロゲンが体内に分泌される期間が長くなってきたといわれています。
エストロゲンは、女性の体を形成したり、体調を整えたりする一方、乳がんの多くがこのエストロゲンと関与しているとされています。このため、乳がんの罹患率の増加は、エストロゲンが体内に分泌される期間が長くなったことと関係があると考えられています。
それでは、エストロゲンが体内に分泌される期間が長くなった理由には何があるのでしょうか。これには、「食生活の欧米化」および「女性の社会進出」の2つが大きく関わっていると考えられています。
1960年頃から急速に進んだ食生活の欧米化に伴い、日本人女性は高脂肪食・高カロリーの食事を摂取する機会が増えました。食事から摂取する脂肪の割合が大きく増えて栄養状態が改善した結果、初潮の低年齢化と閉経時期の高齢化が進行し、生涯に経験する月経の回数が増えました。月経の回数が増加したことにより、エストロゲンが体内に分泌される期間は長くなったといえます。
また、閉経後の女性では、肥満が乳がん発症のリスクを高めることはほぼ確実とされています。閉経前であっても、肥満が乳がん発症リスクを高める可能性が示唆されています。特に閉経後は、主に脂肪組織に存在するアロマターゼという酵素により、エストロゲンが産生されるようになるため、日常生活において太りすぎないように気を付けることが大切です。
近年では女性の社会進出により、「日本女性は未婚や未出産のまま、生涯を過ごす」という選択もできるようになりつつあります。妊娠・出産を経験しない女性は、月経の停止期間が発生しないため、生涯に経験する月経の回数が、妊娠・出産を経験した女性に比べて多くなります。女性の社会進出が進むことで、妊娠・出産を経験せずに月経の回数が増加し、エストロゲンが体内に分泌される期間が長期化する女性は増えています。
ただし、乳がんは、環境要因や遺伝子要因などのさまざまな要因が複雑に関与しあって発生するものです。体形や、妊娠・出産歴の有無のみでなく、アルコール多飲や、喫煙、一部のホルモン補充療法も乳がんの発症に関与するといわれています。
一般的に知られている乳がんの自覚症状は、乳房のしこり(腫瘤)です。そのほか、血性乳頭分泌(乳頭から赤茶色の分泌物が出る)、皮膚のひきつれ(えくぼ症状)、びらん(ただれ)なども現れることがあります。ご自身での乳房の触診や観察でこうした異常に気づき、検査を受けて乳がんと診断されることがあります。
一般的に、乳がんで発生するしこりは、痛みを伴わないことが多いとされています。しかし、しこりの発育過程で周辺組織が引っ張られ、人によっては乳房に痛みを感じる場合もあります。その痛みがきっかけとなり、検査を受けて乳がんと診断される方もいらっしゃいます。そのため、「痛みがあるしこりは乳がんではないから大丈夫だろう」とは考えないようにしてください。
ただし、実際には上述した自覚症状が一切みられず、なおかつ自己触診でもがんを発見できずに、乳がん検診のタイミングで偶然みつかるケースは珍しくありません。しこりのできる位置やしこりの大きさによって、手に触れるか否かは異なってきます。しこりが小さい場合や、乳房の奥のほう(深部)に発生する場合は、手では触れずに、画像検査を行うことではじめて発見されることもあります。
自己触診のみでは、乳がんを確実に見つけることができないのが現状です。ただし、自己触診を行うことは、乳がんの早期発見・早期治療のためには非常に重要であると考えています。医療機関や自治体による乳がん検診を受けられる頻度は、自己負担での任意型検診を定期的に受けている方であっても、年に1回程度とされています。検診と検診の間に自己検診を行っていて症状に気づく場合もあるので、自己検診が大切です。乳房は、胃や肺、大腸などの内臓と異なり、自らの手で触ることが可能な臓器です。自己触診によって、体表に近い部分に発生した乳がんを発見できる可能性もあります。 自己触診を月に1回(月経終了後1週間以内、閉経後は毎月同じ日)のペースで行いつつ、年に1度は乳がん検診を受けていただくことが理想的です。
医療機関などで実施している任意型*の乳がん検診(一次検診)は、施設によってさまざまなコースが設けられています。当院では、2019年7月時点で、計8つのコースを設置しており、ご希望に合う検診内容を選択いただくことが可能です。独立した2名の医師で、読影(画像診断)を行います※。
なお、当院では横浜市対策型乳がん検診**も実施しています。該当する方は予約時にお伝えください。
*医療機関が任意で提供する医療サービスであり、個人が自ら選択して受ける乳がん検診
**40歳以上の女性が2年度に1回市の補助下で受けることのできる乳がん検診
※横浜市における乳がん検診への取り組みについては「記事2」で詳細にお話しします。
乳がん検診の主な内容は、以下の通りです。
各コースは、これらの組み合わせによって成り立っています。基本的には、ご本人の年齢や検診歴などから推奨される組み合わせのコースを提案しますが、ご本人の希望に応じたコースを選択することも可能です。
一般的に、30歳代までの方はエコー検査中心、40歳代以降の方はマンモグラフィ検査による検査中心に行うことが推奨されています。そのため当院でも、30歳代以下の方にはエコー検査を含むコースを、40歳代以降の方にはマンモグラフィ検査を含むコースを受けていただくようにご案内しています。
ただし、後述する高濃度乳房(デンスブレスト)とよばれるタイプであるかどうかによって、検査の有効性が異なります。自分がどのコースを受ければよいか迷う場合には、電話受付時にご相談ください。受診当日に医師に相談してからコースを選択し直すことも可能です。ご希望に応じて柔軟に対応できますので、迷った際には、お気軽にご相談ください。
高濃度乳房(デンスブレスト)とは、乳房に含まれる脂肪の割合が50%以下である状態を指します。マンモグラフィ検査では、乳腺実質は白く、脂肪組織は黒く描出されるので、高濃度乳房の方ほど白さが強くなる傾向があります。乳腺腫瘤は白く映るため、背景が白い高濃度乳房では、本来発見しなければいけない腫瘤が隠れてしまう可能性があります。そのため、マンモグラフィ検査を一度受けて高濃度乳房と診断された方には、次回以降の検診でマンモグラフィ検査とエコー検査の併用をおすすめしています。
高濃度乳房の診断は、マンモグラフィ検査で映し出される乳房と脂肪組織の割合から行います。
人の乳房は、大きく分けて以下の4タイプに分けられます。
このうち「不均一高濃度」および「極めて高濃度」の2タイプが、高濃度乳房と診断されます。
一般的には、年齢と共に乳房における脂肪の割合は増えていくといわれています。そのため、40歳代で高濃度乳房と診断された方が、年齢を重ねるにつれて脂肪の割合が増えたために、高濃度乳房ではなくなるケースも考えられます。とはいえ、この変化には個人差があり、なかには70歳以上の方で高濃度乳房の方もいらっしゃいます。乳房の組織の割合は変化する可能性があるので、直近の検査結果を参考にして乳房のタイプを確認し、適切な検査内容を選択していただくとよいでしょう。
検診で何らかの異常がみられた場合は、要精密検査となり、乳腺外科外来にご案内します。乳腺外科外来では、必要に応じて組織検査などのより詳細な検査を行います。乳腺外科での精密検査で乳がんの確定診断に至ることもあれば、問題なしと診断されて経過観察に移行することもあります。
検診で要精密検査という結果がでてから乳腺外科受診までの間や、精密検査の結果がでるまでの間、受診者の方はもっとも不安を感じられます。そのため、予約までの待ち時間を少なくして、受診されてからも丁寧なご説明をさせていただき、スピーディに結果がでるように努めています。
馬車道ブレストクリニック 院長
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