インタビュー

関節リウマチの治療の鍵――患者さんと医師が共に治療方法を決めていくことが大切

関節リウマチの治療の鍵――患者さんと医師が共に治療方法を決めていくことが大切
守田 貴浩 先生

守田内科医院 院長

守田 貴浩 先生

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痛みや腫れを伴う関節リウマチは適切な時に治療をしないと病状が進行し、その後の生活に大きな影響を及ぼす病気です。どのような症状が現れたなら受診すればよいのでしょうか。また治療法にはどのような選択肢があるのでしょうか。今回は守田内科医院 院長の守田 貴浩(もりた たかひろ)先生に治療の流れや病院の取り組みについて伺いました。

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私たちの体にはウイルスや細菌などの有害な異物から体を守る免疫機能が備わっていますが、このシステムが何らかの異常をきたし、本来攻撃の対象にならない自分自身の細胞や組織を攻撃してダメージを与えてしまう病気を自己免疫性疾患といいます。関節リウマチはその代表的な病気の1つで、免疫システムが手足を中心とする関節を攻撃することで持続的な炎症が起こり、痛みや腫れ、関節破壊が生じます。

有病率は0.5〜1%で、40〜50歳代に多くみられます。また女性のほうが男性よりも3〜4倍多く、女性ホルモンが病態に関わっているためではないかといわれています。

高齢になってからの発症も増えていますが、社会が高齢化していることに加え、免疫機能の老化により体内で炎症が起こりやすくなることも関わっていると考えられています。

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初期の症状には朝の関節のこわばりや手足の指の関節の痛み、腫れがあります。特に第2関節(PIP関節)に症状が現れる場合は関節リウマチの可能性が高いでしょう。

指の第1関節(DIP関節)が変形し関節リウマチを疑って受診される方もいますが、関節リウマチでは症状が出にくい関節であるため“へバーデン結節”という別の病気である可能性が考えられます。へバーデン結節の原因はよく分かっていませんが、更年期前後の女性に多く発症するといわれており、第1関節の隙間が狭くなり骨同士が擦れ合って腫れが生じます。また、関節リウマチ以外で第2関節に変形が出る病気に“ブシャール結節”がありますが、腫れの特徴で鑑別することができます。関節リウマチは関節を包んでいる滑膜という膜が炎症を起こすため柔らかい腫れが生じますが、ほかの病気の場合は骨のゴツゴツとした硬い腫れが生じます。

そのほか、手足以外の関節では頚椎(けいつい)(首の骨)の1番目や2番目に症状が出やすいですが、背骨や腰では症状が出にくいことが特徴です。

また、関節リウマチでは体内で慢性的に炎症が起こっているため、持続的にかぜをひいているような状態に似ており、全身倦怠感や貧血、体重減少、食欲不振などが現れることがあります。

関節リウマチは遺伝的な要因に環境要因が組み合わさることで、発症するリスクが上がると考えられています。家族に関節リウマチの方がいるからといって必ず発症するわけではありませんが、約15〜30%は遺伝的な要因が関わるといわれており、喫煙歯周病などの慢性的な口腔内(こうくうない)の感染、出産などの環境因子が加わって発症すると考えられています。特に喫煙は発症のリスクを非常に高めるとの報告もあります。

また、腸内の微生物が体の免疫に作用していると考えられており、関節リウマチの患者さんの腸内にはプレボテラ属の細菌が比較的多く存在しているとの研究結果も報告されています。これからさらに関節リウマチと腸内細菌の関係性について研究が進んでいくことが期待されます。

関節リウマチは早期発見と早期治療が重要です。ぶつけたなどの明らかな原因がないのに関節の痛みが現れ、柔らかい腫れが2週間から1か月ほど持続する場合には、関節リウマチが疑われますので、専門の医師に相談するとよいでしょう。

関節リウマチの治療は薬物療法が基本です。免疫抑制薬のメトトレキサートが中心となりますが、患者さんの病状に合わせて薬剤を選択していくのが現在の基本的な治療法です。

関節リウマチは早期に進行するため、メトトレキサートを早い段階で速やかに増量することが大切です。効果が現れるまで数週間、週2〜3回程度に分けて内服し、効果と副作用をみながら増量します。痛みや炎症を抑えることも患者さんの生活の質の向上のために大切ですので、薬剤の効果が安定するまでの治療初期においてはステロイドや消炎鎮痛薬を併用することもあります。

メトトレキサートの副作用には吐き気などの消化器症状、口内炎、肝機能障害、間質性肺疾患があります。また、高齢で腎臓のはたらきが悪い方の場合、白血球や赤血球、血小板が減少することがあります。急な胃腸炎や吐き気で十分な食事が取れなくなることで薬の血中濃度が急に上がり、さらに副作用が悪化することもあります。

メトトレキサートを十分量使用して、寛解(病状がしっかり治まっている状況)に至る方は約3割です。メトトレキサートを十分使用しても病気の勢いを抑えきれない、薬の副作用で増量や使用ができないなどの場合には、ほかの抗リウマチ薬を併用したり、生物学的製剤を使ったり、生物学的製剤と同程度の効果が期待できる内服薬のJAK阻害薬を使用したりします。

生物学的製剤は生物由来の物質を用いて作られた薬剤で、注射や点滴で使います。リウマチの炎症を引き起こすTNFやIL-6などのサイトカイン*のはたらきを抑える薬剤や、免疫に関与するリンパ球(T細胞)のはたらきを抑える薬剤があります。JAK阻害薬は、関節リウマチの炎症を起こす細胞内のシグナル伝達を阻害することにより炎症細胞のはたらきを抑える内服薬です。

生物学的製剤、JAK阻害薬ともに免疫に作用する薬剤であるため、肺炎尿路感染症、全身性の感染症などに注意する必要があります。特にJAK阻害薬の特徴的な副作用として帯状疱疹(たいじょうほうしん)**悪性腫瘍(あくせいしゅよう)のリスクが高まる懸念もあり、長期的な検討が必要となっています。治療の際は考慮することが大切です。

*サイトカイン:細胞間の情報伝達を行うタンパク質

**帯状疱疹:神経に沿って痛みや発疹(ほっしん)が現れるウイルス性の病気

長く関節リウマチを患っていて、関節の破壊や変形が進んでしまった場合などには手術療法が行われます。股関節(こかんせつ)が変形して歩行が困難である、足の指の変形で外反母趾(がいはんぼし)などがあり歩くと足の裏が痛いなど、日常生活に支障をきたしている方には手術療法が適応となります。変形を矯正する手術や、膝や股関節などを人工の関節に入れ替える人工関節置換術などがあります。ただし、ここ最近では新規の患者さんが薬物治療を早期かつ的確に開始した場合、手術が必要なほど変形が進行するケースはだいぶ減ってきています。

関節の痛みが長引いている方、体を動かす機会が減ったことで関節が硬くなっている方などにはリハビリテーションが有用でしょう。リウマチ体操などの運動療法、温熱療法などの理学療法があります。

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過度な安静は筋力が低下したり関節が硬くなったりする要因となるため、関節に負担がかからない程度の運動やストレッチを行うとよいでしょう。激しい運動は控える必要がありますが、適度に体を動かしてストレスをためない生活を送ることが大切です。

食生活においては、特に食べてはいけないものはありません。たんぱく質やカルシウムなどを含めたバランスのよい食事を心がけましょう。肥満になると体内の脂肪細胞が肥大化して関節リウマチを悪化させるサイトカインが分泌されやすくなるため、食べ過ぎには注意が必要です。

また、治療薬は医師に指示された用量を守ることが大切です。できるだけ薬を飲みたくないという患者さんもいらっしゃいますが、自分で薬の量を調節してしまうと患者さんと医師との間で治療の評価に違いが出てしまったり、副作用の確認が難しくなったりしてしまいます。もちろん気になることや心配なことがあれば遠慮なく医師に伝えてください。

関節リウマチの治療を継続するためには、定期的に検査を行って全身の症状の経過や副作用の有無を確認し、治療の評価をしていくことが重要です。血液検査では骨髄抑制や肝機能障害などの副作用がないかを確認したり、CRPや血沈、MMP3などの値から関節リウマチの炎症の経過を把握したりします。ほかにもX線検査で間質性肺疾患を合併していないか、尿検査でタンパク尿が出て腎臓の機能が悪くなっていないかなどもチェックします。

当院では、SDM(シェアード ディシジョン メイキング:共有意思決定)を大切にしています。SDMとは患者さんがご自身の価値観や社会的役割を考慮したうえで、適切な治療を選択できるよう医療従事者側が支援する方法です。患者さんの病状や社会的背景を考慮し、決して一方通行にならないよう治療を選択していくことを大切にしています。

また、治療するにあたり気を付けているポイントが3つあります。1つ目はできるだけ早く痛みや病状を抑えられるよう努めること、つまり治療の即効性です。そこにはもちろん安全性が担保されていなければいけませんので、2つ目は安全性です。そして3つ目は長期的な視点を持ち、患者さんが将来どうなっていくかを踏まえて治療に取り組むことです。長期的な視点を持ちながら、治療初期や経過中、病状が悪化したときにできるだけ迅速に対応することが、病状の安定に大きく関わってくると考えています。

私が診療した患者さんの中には、妊娠・出産を経験された方もいらっしゃいます。病状が悪化すると妊娠が継続できなくなる可能性もあるため、悪化しないように薬の量を調整しながら出産されました。痛みを我慢しながらお子さんを抱っこして子育てをしておられたのが印象に残っています。そのお子さんも無事に成長し、その後2人目のお子さんを出産されました。現在も引き続き当院に通院しておられ、いつもお子さんと一緒に来ていらっしゃいます。「妊娠も継続させてあげたいし、症状もできるだけ抑えてあげたい」という、2つの責任を感じながら診療していたことを思い出します。

当院は父の代に開業して以来、関節リウマチを専門とする“地域のかかりつけ医”として診療を行っています。地域の中核病院の先生方が関節リウマチの疑いがある患者さんを当院に紹介してくださることで、地域のリウマチ診療のお手伝いができていると感じています。

当院では2023年現在、約500人の関節リウマチの患者さんが通院されています。若い患者さんもいらっしゃいますが、60〜70歳代の年配の方も多くいらっしゃいます。患者さんの中には高血圧症を合併している方が多く、一時的にステロイドを使用することで糖尿病が悪化することもあるため、それらの対応も並行して行っています。関節リウマチは心筋梗塞(しんきんこうそく)脳梗塞など心血管イベントの発症率も一般の方と比べて高くなるため、生活習慣病をしっかりとコントロールしていくことが合併症予防のために重要であると考えています。

治療の選択肢が増えたことにより寛解を目指すことができるようになりましたが、個々の患者さんごとにどの薬剤が適切なのかを予測することはまだできていません。今後、治療の反応性を予測できるバイオマーカーの解明や実用化が進むことを期待しています。

また、これだけさまざまな治療法があるにもかかわらず、病状が安定しない治療抵抗性の患者さんがまだいらっしゃることも事実です。それらの患者さんの病状の把握が進んで関節リウマチの治療がオーダーメイド化し、今以上に的確な治療を提供できるようになることを期待します。

治療は進歩しているものの、現時点では関節リウマチは治癒する病気ではなく、長く向き合っていかなければならない病気であることに変わりありません。長引く痛みでつらい日々を送っていても周りの方にはなかなか理解してもらえないなど、患者さんご自身にしか分からない苦しみもたくさんあることでしょう。また、いつまで治療を続けなければいけないのか、終わりが見えないことに対する不安もあると思います。関節リウマチ治療の最終目標は、病気がない方とできるだけ同じ生活を送っていただくことです。患者さん一人ひとりの事情や病状はさまざまですから、心配事やつらいことは遠慮なく話してください。一方通行の治療ではなく一緒に相談しながら適切な治療法を選択し、病気と向き合いながら暮らしていけるようお手伝いさせていただければ幸いです。

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