池上総合病院 院長 繁田 明義(はんだ あきよし)先生
東京23区の南側にある大田区は、約74万人の人口を抱え、高齢化率は全国的に見れば低いものの徐々に高齢者が増えている地域だ。住民が安心して暮らし続けるには、今からさまざまな医療課題への対応が必要となるだろう。
大田区の特性や具体的な医療課題について、池上総合病院(東京都大田区)の院長である繁田 明義(はんだ あきよし)先生に伺った。
東京都大田区は、町工場が数多くあり、職人技が光る小さな企業がたくさん集まる地域です。北には田園調布、南には蒲田、羽田があり、全区的にみて40歳代を中心としたファミリー層が多いのではないでしょうか。
現在の高齢化率は22%程度と全国平均の29.3%(2024年10月)に比べて低いものの、老年人口は増えると予測されています。これを踏まえると、将来の医療課題としては「高齢化による循環器系、筋骨格系などの慢性疾患患者の増加」が大きいでしょう。また、現在直面している医療課題としては、「医療スタッフの不足」、「医療介護連携」、さらには地域の特性として外国人の患者さんが多いことから「外国人患者との言葉の壁」といったものがあります。
高齢化とともに、救急の現場でも高齢の患者さんが増加しています。私自身、当院へ救急車で搬送される患者さんを診ていると、骨折や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)といった病気でいらっしゃる患者さんが近年は増えていると実感しています。その結果、入院患者さんの介護負荷が増大しています。
しかし患者さんを受け入れる病院側では、コロナ禍を契機に離職された医療スタッフがなかなか戻らず、人手不足が深刻になりつつあります。そのため、1人のスタッフに多くの負担が集中して働く側の心身の疲労がたまってしまうことも懸念されます。こういった課題を解決するためには、やはり働く環境をよくすることが一番でしょう。
また、地域内の病院同士がもっと協力し合い、得意な治療を分担するのも効果的です。実際、東京都区南部医療圏(大田区・品川区)の病院が集まって得意な診療科目を情報共有しており、たとえば「うちは循環器が強いよ」とか、「うちは整形外科が得意ですよ」とお互いに情報を出し合い、救急隊にも情報共有して患者さんを適切に振り分けることで、スタッフの負担を減らす取り組みが進んでいます。当院は心臓血管外科の急性期の治療に強みがあり、救急でも多くの心血管疾患の患者さんを引き受けているところです。
近年、大田区でも在宅医療を提供する医療機関が増えてきました。地域に根ざして診療を続けているクリニックの先生方が担当している患者さんであれば、在宅療養に移行しても継続的な見守りが可能です。しかし、たとえば都県をまたいで在宅医療を展開する医療機関がこの地域で在宅医療を提供している場合、いざというときにすぐに医師が駆けつけることが難しいという課題があります。そのため、やむを得ず救急車を呼ぶケースも少なくなく、救急車による搬送が増える一因となっています。
地域の在宅医療の質を保つためには、病院と在宅医療を行っている先生方との円滑な情報共有と信頼関係の構築をし、何かあったときは当院がフォローできるような関係が不可欠だと考えています。そのようななかで当地域では医師会が主導し在宅医療を担当されている先生方と病院、そして行政が三位一体となって患者さんの情報を共有するゆるやかなアライアンス構築の取り組みが進んでいます。我々もこの取り組みに賛同し、患者さんもご家族も安心して在宅医療を選べる環境を大田区で作りたいと思っています。
大田区には羽田空港があるためか、近年、当院へいらっしゃる患者さんで外国籍の方が増えています。患者さんの言葉もまちまちで、英語だけでなく、フランス語やインドネシア語など、さまざまな言語を話す方が来院されます。しかし、通訳スタッフを常に配置するのは難しく、特に突発的な救急対応では言語の壁が治療の質に直結しかねません。
こういったコミュニケーションの問題に対処するには、多言語が使えるスタッフの育成や翻訳アプリの活用、多言語対応の案内表示が有効でしょう。当院でも現在、スマートフォンの翻訳アプリを導入し、限られた人員でも対応できるよう工夫を凝らしています。今後はさらにICTを活用し、翻訳精度の向上や職員教育の充実を図ることで多様な患者さんに対応できる環境整備を進めていく方針です。
東京南部地域では、高齢者が増えるなか、慢性疾患患者の増加や医療スタッフ不足、在宅医療の質、外国人患者とのコミュニケーションといった課題が浮かび上がっています。これらの課題に対し、病院間の連携、病院とクリニック・在宅医療他の医療機関との連携など、重要になるのはより緊密な「連携」でしょう。
それらに真摯に向き合いつつ、この地域にお住まいの皆さんに信頼される医療を提供していくことが、私たち医療機関の務めだと考えています。
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