連載地域医療の現在と未来

人口減少時代の例外地帯――成田地域が直面する医療課題とその備え

公開日

2026年07月23日

更新日

2026年07月23日

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2026年07月23日

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成田赤十字病院 院長 青墳信之先生

成田空港の機能拡張に伴い、成田市では今後も人口増加が見込まれている。人口減少と少子高齢化が進む日本において、若い世代や外国人労働者の流入が続く全国でも数少ないエリアだ。
一方で、医療の現場に目を向けると、人材不足や救急医療体制の維持など、全国共通の課題も抱えている。

人口増加地域ではどのような医療体制が求められるのか。また、多様な背景を持つ住民が暮らす地域で、医療機関はどのような備えを進めるべきなのか。
成田市とその周辺地域の現状と今後の展望について、成田赤十字病院院長の青墳 信之(あおつか のぶゆき)先生に伺った。

成田地域の現状と主な医療課題

千葉県北部に位置する成田市周辺は、日本の空の玄関口である成田空港を擁する地域です。現在は滑走路の新設・延伸工事が進められており、将来的には年間発着回数50万回体制が計画されています。

こうした空港機能の拡張に伴い、今後成田市は空港関連産業を中心とした雇用の増加が見込まれています。それに伴って働き手やその家族の流入が進み、人口増加が予想されていることが、この地域の日本でも珍しい大きな特徴といえるでしょう。また、外国人住民のさらなる増加も見込まれており、地域社会はこれまで以上に多様化していくと考えられます。

このような地域特性を踏まえると、私は成田市とその周辺地域が直面する医療課題として、「人口増加に伴う医療需要の変化」、「外国人住民の増加と多国籍化」、「医療人材不足と働き手確保」、そして「救急医療を維持するための地域連携」が挙げられると考えています。
これらはそれぞれ独立した課題ではありません。人口が増えれば医療需要も増加し、それを支える医療従事者が必要になります。外国人住民が増えれば、多言語対応や文化的背景への配慮も欠かせないでしょう。さらに、増加する患者さんを支えるためには病院同士の連携強化も求められます。これらにどう備えていくかが、この地域の未来の安心を守る鍵になります。順番に見ていきましょう。

人口増加に伴う医療需要の変化

先にも述べたように、成田空港の機能拡張によって、今後も働き手の流入が見込まれ、人口増加が予想されています。人口が増えれば、当然ながら医療機関を利用する方も増加するはずです。

特に注意したいのが、若い世代の流入による医療需要の変化です。全国的には出生数の減少を背景に産科医療の縮小が課題となっていますが、成田市やその周辺では引き続き出産や小児医療への対応が求められます。
また、人口が増えれば救急搬送件数や入院患者数も増加する可能性があります。高齢者医療だけでなく、働く世代や子どもを対象とした医療も含め、幅広い診療体制を維持しなければなりません。

こうした状況では、現在の需要だけを見て医療体制を整備することは難しいと考えています。将来の人口動態や地域開発の状況を見据えながら、数年先、十数年先の需要を予測して備える視点が欠かせません。

対応策としては、将来人口を踏まえた医療計画の策定が挙げられます。その計画にしたがって病床数や診療機能を適切に整備するとともに、周産期医療や救急医療など地域に必要な分野へ重点的に資源を配分することが重要でしょう。また、将来の医療需要を支えるためには、地域の医療機関との連携を強化し、診療所や行政を含めた地域全体での医療提供体制づくりも求められます。

この状況に合わせ、成田赤十字病院でも、将来の需要増加を見据えた取り組みを進めており、現在、救命救急棟の整備計画が進行中です。また、地域周産期母子医療センターでは新生児搬送(病院の救急車で病気の赤ちゃんをお迎えすること)も開始するなど、地域の状況に合わせた備えを進めているところです。

外国人住民の増加と多国籍化

成田地域の大きな特徴として、外国人住民の増加と多国籍化が挙げられます。
成田空港の機能強化に伴い、今後は空港関連産業や物流関連産業を支える外国人労働者の増加が見込まれています。働く人が増えれば、その家族も地域で暮らすようになり、医療機関を利用する外国人の住民も増えていくでしょう。

こうした変化は地域に活力をもたらす一方で、医療現場には新たな課題を生み出します。
まず挙げられるのが言語の壁です。患者さんが自覚症状を十分に伝えられなかったり、医療者側の説明が正しく伝わらなかったりすると、診療や治療に影響を及ぼす可能性があります。特に救急医療の現場では、限られた時間の中で正確なコミュニケーションを取らなければならないので、この課題は重いものがあります。

また、医療保険制度への理解度の違いや、宗教・文化的背景による価値観の違いに配慮する必要もあります。食事や輸血、人生の最終段階における医療(終末期医療)に対する考え方など、日本人患者とは異なる対応が求められる場面もあるはずです。

対応策としては、多言語による案内表示の整備や医療通訳の活用が挙げられます。近年は翻訳アプリやAI技術も進歩しており、それらを診療現場で活用する動きも広がっています。また、外国人患者の受け入れに関する院内ルールの整備や職員教育も重要な取り組みといえるのではないでしょうか。

当院は2018年に外国人患者受入れ医療機関認証制度(J-MIP)の認証を取得し、以降更新を続け、本年にも更新審査を受審します。この認証を得るということは、多言語での案内・宗教や文化への配慮・外国人患者受入れの院内ルール整備が病院全体でできていることを意味します。
さらには国際診療科を設置し、国際空港周辺地域の基幹的な病院として、多様な患者さんを受け入れられるよう努めています。
日本全体で今後さらに外国人住民が増加すれば、このような受け入れ体制の整備は地域全体で重要になっていくでしょう。

医療人材不足と働き手確保

3つ目に挙げた医療人材不足と働き手確保の課題は、当地域だけでなく全国の医療機関の課題です。現在、日本各地で医師や看護師、薬剤師などの医療従事者の確保が難しくなっており、中でも看護師不足は深刻で、人材獲得競争は激しいものがあります。
この問題は、本当に深刻です。たとえば看護師が1人でも足りないと、一人ひとりの業務負担が増加してしまいます。その結果、残った人に疲労やストレスが蓄積し、さらなる離職につながるケースも少なくありません。離職者が続けば残った職員の負担がさらに大きくなるため、人手不足が連鎖的に深刻化する恐れがあります。

この問題が怖いのは、深刻な状況がまだ始まったばかりであることです。日本では、2040年頃には高齢者人口がピークを迎えると予測されています。つまり、医療や介護を必要とする方はこれからも増えていくのです。一方で、生産年齢人口は今後も減少していく見込みです。そのため、人材確保は今後さらに重要なテーマになるのではないでしょうか。

そして、成田地域の場合、人口増加によって医療需要の拡大が予想されます。つまり、この課題はより大きな問題となる可能性があるのです。

こうした状況に対応するため、多くの医療機関では職場環境の改善に力を入れています。具体的には、育児や介護との両立支援、柔軟な勤務体制の整備、キャリア形成支援などが代表的な取り組みです。また、業務の効率化によって職員の負担を軽減することも欠かせません。
近年はDXを活用した働き方改革も進んでいます。予約システムの導入や事務作業の効率化によって、医療従事者が患者さんと向き合う時間を確保しようという考え方です。当院でもDX化を進めており、Web紹介システムやAI電話、人間ドックのWeb予約システムなどを導入し、職員が本来の業務に集中できる環境づくりに取り組んでいます。

救急医療を維持するための地域連携

4つ目の課題、「救急医療を維持するための地域連携」は、これからの日本全体の医療を考えるうえでも注力して取り組むべきものです。

当院のような救命救急センターがある基幹的な病院には、重症患者さんが集まります。しかし、その病院では全ての患者さんを長期間受け入れ続けることはできません。病床が埋まれば新たな救急患者さんを受け入れられなくなり、地域全体の救急医療に影響を及ぼしてしまうからです

そのため、現在の日本の医療制度では、当院のような病院は急性期治療を終えた患者さんを地域の連携病院へ引き継ぎながら、新たな重症患者さんを受け入れていく仕組みが重視されています。基幹的な病院は重症患者さんへの対応に集中し、地域の医療機関は回復期や慢性期の医療を担う。こうした役割分担によって地域全体の医療機能を維持しようという考え方です。

ただし、この仕組みを機能させるためには医療機関同士の信頼関係だけでは十分ではありません。患者さんやご家族にも地域医療連携の意義を理解していただく必要があります。
救急の患者さんやご家族の中には、「なぜ転院しなければならないのか」「同じ病院で最後まで診てもらえないのか」と感じる方もいらっしゃいます。しかし、地域全体で患者さんを支えるという視点に立てば、役割分担は救急医療を守るための重要な仕組みなのです。

当院も、成田地域の急性期を担う病院ですから、救急の患者さんを受け入れて全力で治療を行います。そして、治療が一段落したら地域の回復期、慢性期の病院で引き続き回復に向けた治療を受けていただき、当院は引き続き救急患者さんの受入体制を整えることで、より多くの方を助けることができるのだということを、ご理解いただけましたら幸いです。

地域の変化に対応し続けるために

これまで4つの課題を挙げましたが、改めて思うのは、人口減少が進む日本において、人口が増えている成田地域の特殊性です。
若い世代や外国人住民の流入が見込まれる一方で、人材不足や救急医療体制の維持といった全国共通の課題にも向き合わなければなりません。

だからこそ、この地域では従来とは少し異なる視点で医療体制を整備していく必要があります。将来の人口動態を見据えながら、多様な背景を持つ住民の方々が安心して暮らせる環境を整えていくことが重要でしょう。

当院は、地域に必要・信頼・期待される赤十字病院になることをビジョンに掲げています。
来る令和9年、日本赤十字社は創立150周年を迎えますが、その長い歴史の中で受け継がれてきた「苦しんでいる人を救いたい」という人道の精神は、今も私たちの根幹にあり続けています。
これからも、日本赤十字社の使命「いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守る」という想いを胸に、地域の医療機関や行政、住民の皆さまと力を合わせながら、一つひとつの課題に向き合い、安心して医療を受けられる環境を守り続けていきたいと考えています。
 

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