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膵臓がんの早期診断プロジェクト『尾道方式』の成果とは?5年生存率が全国平均の3倍に

膵臓がんの早期診断プロジェクト『尾道方式』の成果とは?5年生存率が全国平均の3倍に
花田 敬士 先生

JA広島厚生連尾道総合病院 診療部長・内視鏡センター長

花田 敬士 先生

この記事の最終更新は2017年08月23日です。

2007年より広島県尾道市で行われている、膵臓がんを早期診断するための『尾道方式』と呼ばれるプロジェクト。これは尾道市に従来から根付いている病診連携システムをうまく生かして、中核病院と連携施設が協力して膵臓がんの早期診断を目指す取り組みです。

このプロジェクトによって、尾道市の膵臓がんの患者さんの5年生存率(がんの治療を開始して5年後に生存している割合)は、全国平均の3倍近い20パーセントになりました。

『尾道方式』はどのように地域へ定着し、成果を上げたのでしょうか。引き続き、JA尾道総合病院 診療部長・内視鏡センター長の花田敬士先生にお話を伺いました。

『尾道方式』を実践するためには、まずJA尾道総合病院内の医師をはじめ、院内スタッフの理解が不可欠でした。

そこで、院内で膵臓がんに関する知識を身につけてもらう機会を定期的に設けました。

また、膵臓がんにかかわる当院の診療科の医師が膵疾患のデータベースをつくり、情報共有を行っています。

スクリーニングで膵管拡張や膵嚢胞がみられた場合に行う超音波内視鏡(EUS)の検査は、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)に比べると、鮮明な画像を得るために高い技術が必要となります。

2003年に内視鏡学会よりEUSの標準的なマニュアルが刊行されたことで技術的な水準は上がりましたが、当地区には熟練した術者がいませんでした。

そこで、全国のEUSのエキスパートの元へ伺い、繰り返しノウハウを教えていただきました。

また、磁気共鳴胆管膵管撮影法(MRCP)の画質の向上や、検査技師の献身的な協力により、膵臓の異常に速やかに気づき、ステージ0の上皮内がんを診断できるようになりました。

併せて超音波検査(US)や細胞診に関しても、診断率の向上のためにスタッフとの教育・啓発・協働を行いました。

JA尾道総合病院では、どなたでも気軽に参加いただける『すいがん教室』を開催し、膵臓がんの早期診断のための啓発や、膵臓がんに関する知識の共有を行っています。早期発見の価値について理解し、さらに『尾道方式』へのモチベーションを高めてもらうという目的があります。

『すいがん教室』は国立がん研究センター中央病院で発足し、次第に全国の施設で取り組みが始まっており、2011年からは教室運営のためのワークショップも開催されています。

「すいがん教室」の様子

長年の準備期間を経て、2007年に膵臓がんの早期診断プロジェクト『尾道方式』がスタートすると、膵臓がんの危険因子を持つ方々の検査・受診の数が増えてきました。しかし、JA尾道総合病院内だけで『尾道方式』を行うには限界があるため、この取り組みを尾道市全体に拡散する必要がありました。

尾道市医師会を巻き込んで『尾道方式』を実施できないかと考えた私は、尾道市医師会End-of-life-careシステム検討委員会(尾道市医師会の各種プロジェクトを統合し、地域包括ケアシステムを整備するための委員会)でプロジェクトへの協力を呼びかけました。

尾道市医師会End-of-life-careシステム検討委員会は、主に終末期の患者さんを対象としている組織です。そのような場で膵臓がんの早期診断へ協力を呼びかけることに否定的な声もありました。しかし、当時医師会長であった片山 壽先生に趣旨を御理解いただき、尾道市医療担当副市長や広島県東部保健所長など保険行政に携わる立場の方たちにも、膵臓がんを早期診断することがいかに重要であるかお話しさせていただきました。

この結果、尾道市医師会の先生方にご理解いただき、JA尾道総合病院と尾道市立市民病院を中心に、尾道市医師会のオフィシャルなプロジェクトとして『尾道方式』を実施する体制を整えることができました。

『尾道方式』の取り組みは尾道市医師会のホームページでも紹介されています。

医師会
素材提供元:PIXTA

本プロジェクトを開始した2007年1月から2015年6月までの間に、8394例の膵臓がんの疑いのある方から432例の膵臓がんを組織学的に確定しました。

このなかには早期診断例も多数あり、ステージ0の上皮内がんを18例、ステージⅠを36例診断することができました。

早期診断によって尾道市の膵臓がん患者さんの予後は確実に改善されています。

2007年以降の診断症例において、5年生存率(がんの治療を開始して5年後に生存している割合)は約20パーセントを達成しました。これは広島県平均の約8.5パーセント、全国平均の約7.5パーセントを大幅に上回っています。

広島県では、がん患者さんの予後情報について住民基本台帳を参照することが可能な体制が整備されており、県に申請すればデータのフィードバックが可能で、非常に高率な追跡率を達成しています。

厳密なデータ管理
素材提供:PIXTA

こうして一定の成果を上げた『尾道方式』は、学会などで注目され、病診連携の体制が確立されている地域に少しずつ広がりをみせています。

たとえば、甲府市や大阪キタ地区などの地域でも同様の取り組みが始まっており、早期診断例が出始めています。

尾道市で始まった取り組みは広島県全体に広がりつつあり、膵臓がんの危険因子を拾い上げていくためのプロジェクトが、広島県および地域保健行政の協力によって2017年からスタートします。さらに尾道市では、すでにがん検診に腹部超音波が導入されています。

市の検診担当の方たちにも膵臓がんに関する情報を提供し、そこから早期診断につなげるために、引き続き啓発を行っています。

膵臓がんの早期診断には、危険因子のある方に積極的に超音波検査(US)の介入を行うことが重要と考えています。そのためには開業医の先生方のご協力がどうしても欠かせません。

患者さんのなかには、中核病院で初対面の専門医と生活習慣や家族歴などについて話すことに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。是非普段から、患者さんと信頼関係を築いておられるかかりつけ医の先生方に機能していただき、膵臓がんの危険因子を持つ患者さんの発見に御協力頂きたいと思います。

膵臓がんのさらなる予後改善を目指すためには、私は現在の『尾道方式』だけでなく、別のアプローチも必要であると考えています。

『尾道方式』による精密検査の結果、膵臓がんではないものの、定期的な経過観察が必要な患者さんは多数いらっしゃいます。しかし、尾道市は医師も患者さんも高齢化が進んでおり、継続的な経過観察に限界があるという事情があります。今後、高感度で容易に膵臓がんを早期診断できる方法の模索が重要です。現在取り組んでいるのは、早期膵臓がんマーカーの開発です。『尾道方式』によって診断された大変貴重なStage 0、Stage Iの症例の検体を用いて、今後、国内外の各種研究機関と協働して新しいバイオマーカーの発見を目指しています。

研究・開発

今後は、2020年までに全国の膵臓がん患者さんの5年生存率を20パーセントにすることを目指しています。これはNPO法人パンキャンジャパン(膵臓がん撲滅のアクションネットワーク)が掲げている目標でもあります。

膵臓がんを早期に診断できれば、患者さんの予後は大幅に改善されます。地域の先生方には、ファーストステップである危険因子の掘り起こしはもちろん、腫瘤をみつけるのではなく、膵管の異常に着目したスクリ-ニングの重要性に御理解と御協力をいただきたいと考えています。

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  • JA広島厚生連尾道総合病院 診療部長・内視鏡センター長

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