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膵臓がん早期発見のために!広島県尾道市で実施されている診断方法『尾道方式』とは?

膵臓がん早期発見のために!広島県尾道市で実施されている診断方法『尾道方式』とは?
花田 敬士 先生

JA広島厚生連尾道総合病院 診療部長・内視鏡センター長

花田 敬士 先生

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この記事の最終更新は2017年08月22日です。

早期の膵臓がんでは、特徴的な症状がほとんどありません。そのため早期発見は難しく、症状が出たときにはかなり進行している状態で、予後も極めて不良です。

膵臓がんの予後を改善するために、広島県尾道市では尾道市医師会が中心となって2007年より『尾道方式』と呼ばれる膵臓がんの早期診断プロジェクトに取り組んでいます。

このプロジェクトによって広島県尾道市の膵臓がんの5年生存率は、全国平均の7.5パーセントを大きく上回る約20パーセントに達しました。

膵臓がんの早期診断のために、広島県尾道市ではどのような取り組みが実施されているのでしょうか。JA尾道総合病院 診療部長・内視鏡センター長の花田敬士先生にお話を伺いました。

膵臓は、発がんしても自覚症状がないまま進行することが多く、肝臓と同じく『沈黙の臓器』と呼ばれています。膵臓がんは、まず膵管上皮に発がんし、浸潤・転移・腹膜播種(ふくまくはしゅ:腹腔内に広がること)という経過をたどります。日本膵臓学会の膵癌取扱い規約(2016年、第7版)では、病状によって0期、IA期、IB期、IIA期、IIB期、III期、IV期の7つの病期に分類されています。

膵臓

素材提供:PIXTA

膵臓がんは発見されたときに、すでに症状が進行している場合がほとんどです。また、膵臓の周辺には、胃や十二指腸などの様々な臓器や血管・神経などが入り組んでいるため、進行した膵臓がんの治療は困難を極めます。さらに予後も不良で、他のがんに比べると膵臓がんの5年生存率は低いことが知られています。

2013年の広島県における統計では、23種のがんのなかで膵臓がんの5年生存率は最も低いという結果が出ました。

私が1997年に広島県尾道市に赴任してきた当時から、尾道市医師会では強固な病診連携の体制が確立されていました。

たとえば、JA尾道総合病院から急性期の治療が終わって退院する際に、医師や看護師、多職種のスタッフが集まって、患者さんの退院後のサポートについて話し合う退院カンファレンスが行われます。多いときは月に10回前後行われており、在宅診療の先生が当院に足を運んでくださるため、自然と顔の見える連携ができあがっていました。

尾道市の在宅診療の先生は、休診日に当院で回診を行ったうえで担当医と患者さんの治療方針を話し合ったり、紹介状のやりとりだけでなく当院の勤務医と気軽に声をかけあえるような関係づくりに協力してくださったりと、非常に熱心な方が多いです。

勤務医と気軽に声をかけあえるような関係

素材提供:PIXTA

膵臓がんは、その治療の難しさから一般的に『治療へのモチベーションが上がらない』『診断=余命宣告』というイメージが持たれていますが、私は手術ができなくなる前に膵臓がんをみつけることができれば、膵臓がんの治療成績は向上すると考えていました。そして、尾道市の強固な病診連携の体制をうまく生かすことで膵臓がんを早期診断できるのではないかと考えました。

そこで1997年頃から、在宅診療で患者さんに膵臓がんの疑いがみられた場合には、JA尾道総合病院に紹介していただき、当院で内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を用いて検査を行う体制を築くことを考えました。

ERCPは、口から十二指腸まで挿入した内視鏡の先端から、膵管・胆管の中にカテーテルを挿入し、造影剤を入れることでX線写真を撮影する検査です。

膵臓がんの診断に効果的な検査ですが、急性膵炎など合併症を起こすリスクがあります。膵臓がんではなかったが膵炎に罹ってしまった、という事態も起こりうる検査なのです。

さらに、ERCPは侵襲が大きく、入院が必要であるため、手軽に行える検査ではありません。そのため、ERCPを導入する際、「未病の方への検査法としては侵襲が大きすぎないか」という声も一部で挙がりました。

その後、一定の理解を得ることはできましたが、受診者の数は思うように伸びず、膵臓がんを取り巻く状況を大きく変えることができない日々が7から8年間続きました。

そのような状況のなかで、2006年に日本膵臓学会から初めて『膵癌診療ガイドライン』が発刊され、膵臓がんの危険因子が初めて記載されました。危険因子の学問的な裏付けがある程度できたため、症状が出ていない方にもこの因子を示し、検査を促すことができるようになりました。現在、『膵臓診療ガイドライン2016年版』が出版されており、危険因子など膵臓がんについての最新情報を確認することが可能です。

ガイドライン

素材提供:PIXTA

さらに同時期、診断機器としてEUSが本格的に普及し始めました。これが、膵臓がんの早期診断を目指す私たちの背中を押してくれました。EUSは画像の分解能に優れ、侵襲が少なく、入院も必要ないため、ERCPに比べると、負担の少ない検査法です。そのため、従来の検査法に比べると、地域のみなさんの検査への抵抗を減らすことができました。

『膵癌診療ガイドライン』における膵臓がんの危険因子の掲載や、EUSの登場が契機となり、2007年より本格的に『尾道方式』と呼ばれる膵臓がん早期診断プロジェクトが尾道市医師会を中心にスタートしました。

ここからは、尾道方式の具体的な流れをご紹介します。

実際の『尾道方式』は、以下のように行われます。

膵臓がん検診の流れ

まず、危険因子を2つ以上もつ方を対象に、地域の医療機関での超音波検査(US)をおすすめします。

そこで膵管拡張や膵嚢胞がみられた場合、JA尾道総合病院または尾道市立市民病院などの中核施設に紹介していただき、外来でEUS、腹部CT、磁気共鳴胆管膵管撮影法(MRCP)などを受診者の状況を考慮して行います。

そして、所見に応じて超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)、ERCP、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)を用いた複数回の膵液細胞診を実施するという流れです。

検査を受診された方のなかで経過観察が必要な方は、中核病院と連携施設で定期的に超音波検査(US)や腫瘍マーカー測定を行っていただけるような体制を整えています。

また、地域医療を支援する目的で設立された尾道市のNPO法人『天かける』では、地域連携システムを電子化し、中核病院と連携施設、薬局などがネットワークでお互いの診療情報を一部共有可能にしました。これにより経過観察を円滑に行う一助となっています。

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    花田 敬士 先生

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