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インタビュー

肝臓がん手術の進歩〜30年間のあゆみ

肝臓がん手術の進歩〜30年間のあゆみ

この記事の最終更新は2017年02月06日です。

肝臓がんには手術、ラジオ焼灼療法、肝動脈塞栓療法などさまざまな治療方法があります。中でも、治療後5年目の生存率が最も高い治療が手術です。ここ30年で飛躍的な進歩を遂げた肝臓がん手術について、「高山術式」を開発した日本大学医学部附属板橋病院消化器外科教授、高山忠利先生にお話をお伺いしました。

肝臓がんの治療において、5年後の生存率が最も高い治療方法は手術です。2016年現在、5年生存率は57%です。手術以外の方法ではカテーテルを用いる肝動脈塞栓療法(TACE)が比較的有効といわれていますが、それでも5年生存率は25%です。このことを考えると、手術は痛い思いをするだけの効果はあるといえます。

もともと肝臓がんは治療がうまくいっても再発しやすいと言われており、30年前は手術でも5年生存率が20%でした。この進歩を考えれば今後も手術での生存率は上がると考えています。

一方、手術による死亡率も年々減少しています。30年以上前は技術のある医療機関でも15%、専門でない医療機関では50%ほどの患者さんが手術で命を落としていました。当時の患者さんにとって肝臓がん手術は生死をかけた決断でしたが、現在の死亡率は全体の1%未満にまで下がっています。

日本の肝臓がん手術による死亡率

・1968~1977年 肝がん手術死亡率:15.7%
・2006〜2007年 肝がん手術死亡率:0.6%

引用:日本肝癌研究会「第4回全国原発性肝癌追跡調査報告(1968年~1977年)、

日本肝癌研究会「第19回全国原発性肝癌追跡調査報告(2006年~2007年)

当時はCTや超音波という技術もなかったため、肝臓がん治療は発見の段階から遅れをとっていました。今であれば2〜3cmの小さな腫瘍の段階で肝臓がんを発見し治療できるのに対し、30年前は10cm以上になるまで腫瘍を発見できないという時代でした。

さらに30年前の肝臓がん手術は、先に述べたように非常にリスクの高い手術でした。その第一の理由は「出血量の多さ」です。肝臓は「血の塊」ともいわれ、血管の多い臓器です。どんなに細くても、血管を傷つけてしまえば大量出血を招く危険性があります。

人の体重の約8%は血液ですから、たとえば体重60kgの方の場合、4,800ccが血液量という計算になります。ところが、当時は手術中に5,000ccほどの血液が失われることもありました。肝臓がん手術のリスクがいかに高かったかおわかりいただけるはずです。たとえ手術が成功しても出血量が多いと合併症を起こしたり、術後の患者さんの体力が落ちるなど、患者さんに元気に退院してもらうことが難しくなってしまいます。

またその頃、肝臓は中央線を境に左右2つに分けたどちらか1つを取る手術しかできなかったため、肝臓の中央部にできたがんを手術で取り除くこともできませんでした。肝機能の悪い、肝硬変などを患った患者さんの場合、肝臓を半分も取ってしまう従来の手術では、残された肝臓の機能も弱まるため、なかなか手術には踏み切れませんでした。

従来の肝臓区分

日本大学医学部を卒業したのち、このような現状に直面した私は、30歳の頃に当時国立がんセンターに勤めていた幕内雅敏先生の講演に強い感銘を受け、研修医として入りました。そこは当時から最先端で、肝臓がん手術における出血や手術死亡も少なく、患者さんがみんな元気に帰って行きました。私は今まで見てきた肝臓がん手術との違いに大変感動しました。

またこの時期、ちょうど幕内術式の論文がアメリカの外科学会雑誌に載り、全世界から医師たちが見学にやってきていました。彼らも、手先の器用な日本人特有の手術や幕内グループの革新的な手術に大変驚いていました。

幕内先生が世界に先駆けて確立した方法は以下の3つです。

 

肝臓ガンの術中の超音波画像
術中の超音波画像(提供:日本大学医学部附属板橋病院)

 

1つ目は初の術中超音波の使用です。以前の手術は肝臓に明確な目印がないため、内部がよく見えないまま切除するしか方法がありませんでした。しかし、超音波の導入によって血管の位置を把握することができるようになり、より細かく正確に肝臓の解剖を正確に認識することができるようになりました。

幕内術式で用いる肝臓の8区分

2つ目は後に幕内術式と呼ばれる「系統的亜区域切除」の確立です。従来は肝臓を2つに割ったどちらか半分を切除する必要があったのに対し、この幕内術式では、肝臓を8ブロックに分け、その一部を切除し治療します。

肝臓を8ブロックに分ける概念は、1954年にフランスの解剖学者クイノー先生が死体を用いた解剖で提唱していました。幕内先生が成功させた人体での切除成功は当時、画期的なことでした。

3つ目はプリングル法の導入です。プリングル法はもともとアメリカのプリングル先生が外傷を負った肝臓を止血するために生み出したものでした。肝臓につながる血管を一度挟み込んで遮断するというシンプルな手法ですが、幕内グループはこれを初めて肝臓がんの手術に導入しました。

以前は肝硬変の患者さんにプリングル法を用いると肝臓が腐ると本気で信じられていましたが、実際に導入してみるとそんなことはなく、肝硬変の人が15分間阻血されていても肝障害は出ないことがわかりました。プリングル法の導入によって出血量が圧倒的に激減したことで、手術場が血の海になることもなくなり、より緻密な手術が可能になりました。

私は幕内先生のもとでこのような大きな変化を間近に経験しました。がんセンターには手術を希望する患者さんが通常の病院の10倍ほどやってきますから、私自身もたくさんの手術を経験し、かなり鍛えられたと思います。

高山先生

現在の肝臓がんの手術はかなり精度が上がりました。私が手術の中で特に注意していることは、止血方法です。先のプリングル法に加え、電気メスではなく手作業による糸の止血結禁で、出血量をおさえています。これも幕内先生から学んだ技術のひとつです。

血管を一本一本糸で縛り止血しながら、がんを切り取っているため、私の肝臓がんの手術は平均して6時間と、長時間に渡ります。肝臓は大変血管が多い臓器なので、相当な数の血管を縛る必要があり、時間がかかります。

しかし、確実に血管を縛っていくことによって、30年前5,000ccも出ていた出血が、今では300cc前後とかなり少なく済むようになりました。皆さんが行う1回の献血量がだいたい400ccですから、出血量をこれに収めることを目標にしています。

電気メスなどを用いると止血が不十分になり、出血量だけでなく、胆汁が漏れるなどの後遺症も心配されます。手作業による糸での止血は作業が細かく、医師たちにとってはかなりのトレーニングが必要にはなりますが、患者さんのリスクは軽減できます。

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