膵臓がんは「難治がん」の1つで、手術だけでは根治が難しく、放射線治療と化学療法を併用して初めて根治に結びつくといわれています。放射線治療は高い技術を要し、使用する装置も大きいため残念ながら行われていない病院もありますが、化学療法と併せて賢く使えば、化学療法だけでは再現できない有効ながん治療を行うことができます。
大阪府立成人病センターは、放射線治療をより緻密に的確に行うことで、膵臓がんそのものだけでなく、手術では切除できない神経や血管の治療も行っています。今回は放射線治療科で主任部長を務める手島昭樹先生にお話を伺いました。
放射線治療は、「手術」「化学治療」と並び、がん治療の3つの手段のうちの1つです。放射線は人体に照射すると活発な細胞に強く反応を示し、遺伝子に作用してその細胞の分裂を阻止する性質を持っています。がんの放射線治療はこの仕組みを利用し、活発に動くがん細胞に放射線を照射することで、がん細胞の増殖を抑制したり、消滅させる治療です。
膵臓がん治療は、医師による最初の治療方針の決定が何よりも大切です。ここでボタンのかけ違いが起こってしまうと、治療がうまく進まないことがあります。ですから、まずは正確に診断を行い、それぞれの患者さんにとってどのような治療が的確であるかを内科、外科、放射線治療科など専門医たちが集まり、その都度話し合って決めています。
膵臓がんの治療方針を決定する上で最も重要なポイントは「手術ができるかどうか」です。膵臓がんはがんの中でも難治がんと呼ばれ、手術をしなければ根治が難しいといわれています。
手術ができるかどうかは、膵臓がんのステージ(状態)と腫瘍の位置によって判断されます。腫瘍の位置が重要な理由は、腫瘍が血管を侵食していると手術ができない場合があるためです。膵臓周囲には腸管につながる大切な血管が多く、手術でこの血管を切断してしまうと膵臓や腸管が正常に機能しなくなってしまいます。そのため、手術時にこれらの血管を温存できないことがわかっている場合は、手術を行わず放射線治療・化学治療のみで治療することもあります。
膵臓がんは手術ができなければ根治は難しいと述べましたが、その一方で手術だけでは根治しないこともわかってきています。近年では「集学的治療」という、手術・放射線治療・化学治療の3つを効果的に組み合わせる治療法が膵臓がんの根治に繋がるという見方が強まってきています。
大阪府立成人病センターでは手術・放射線治療・化学治療を組み合わせた治療を行った場合、膵臓がんの患者さんの5年後生存率は50%という結果が出ています。この成績は、がん治療が主に手術だけで行われていた頃には出せなかった数字です。
放射線治療と化学療法は、併用することでがん細胞への影響が強まるという特徴があります。それぞれの得意分野が異なるため、どちらの治療方法をどのように使うかは、その患者さんの病状に合わせて医師が判断します。
放射線治療の得意とするところは局所的ながんを治療することで、手術で除去できない部分にあるがん細胞の活動を弱めたり、まだ腫瘍(かたまり)にはなっていないがん細胞を壊すために用いられます。
一方で、進行がんなど遠隔転移が見受けられる場合は化学療法の方が効果的であるといわれています。
放射線治療は機器や治療状況に応じて相場もさまざまですが、標準治療といわれる「3次元の放射線治療」であれば、50〜60万円ほどで受けることができます。また放射線治療は保険が適用されるため、実際に患者さんが負担するのは、このうちの1〜3割です。高額医療制度もあり、所得に応じて自己負担の上限があり、還付を受けられます。
放射線治療は、がんの位置を正しく把握し、放射線をどのように照射するか計画するプロセスが非常に重要です。先にも述べましたが、膵臓がん治療は治療方針を定め、計画的に治療していくことが最も大切ですから、放射線治療においてもがんの位置や状態を正しく捉え、治療方法を決定しなければなりません。
まずがんの位置を正しく知るために、CTを活用します。CTはX線を使って、患者さんの身体の断面を撮影することができる機器です。大阪府立成人病センターでは、2.5mmスライスでCTを撮影し、画像診断を行うとともに、がん腫瘍の座標を綿密に調べx,y,z軸で示します。
次にCT画像を元に放射線をどのように照射するか計画するのが、「放射線治療計画装置」です。この機械は血管1本1本の位置を同定しながら、線量を細かく設定することができます。例えば、他臓器に当たる線量を減らしたり、再発が多い部位には多めの線量を照射することができます。
計画を立てる際に注意することは、患者さんの呼吸による臓器の移動を想定して治療計画を立てることです。なぜなら放射線を照射する際も、患者さんは呼吸をしているので、それに応じて臓器の位置が少しずつ動いているからです。
放射線はがん細胞の活性化を抑制し、消滅させるとても有効な治療方法です。しかし一方で、がんではない正常な組織に一定量の放射線を照射してしまうと、副作用が起こるなど、人体にさまざまな悪影響を及ぼしかねません。そのため、現代の放射線治療は、がんに対し放射線を一方向から当てるのではなく、さまざまな方向から正常組織に対しては分散させ、腫瘍に対しては集中させて照射する手法が取られています。これにより、がんにしっかり放射線が届き、他の臓器や皮膚に対する被曝を最小限に抑えることが可能です。
放射線を照射する装置は「リニアック」と呼ばれています。日本語では「線形加速器」と呼ばれ、電子を加速させてX線に変換し、レントゲン撮影に使用する放射線の数十倍にもなるエネルギーの放射線を照射します。ここではリニアックの種類をいくつかご紹介します。
今最も一般的な放射線治療といえば、この3次元照射です。がんに対して体の数方向から腫瘍の形状に合わせて放射線を照射します。
IMRTは従来のリニアックをさらに高精度にしたもので、線量の強弱をつけられるようになったことが特徴の一つです。このIMRTの導入により、より綿密な治療計画が立てられるようになりました。
IMRTはすでに大阪府立成人病センターでも導入されており、当センターでは照射を正確に行うため、患者さんそれぞれの型のようなベッドを作り、患者さんがいつ治療台に横になっても同じ姿勢で放射線を照射できるように工夫しています。また、その上に患者さんが横たわったときの「吸気(きゅうき・息を吸っているとき)」「呼気(こき・息を吐いているとき)」それぞれのCTを撮影し、臓器の動きも正しく把握するようにしています。
このような、より細かく効果的な治療方法は大阪府立成人病センターの放射線治療科の強みでもあり、他の施設から「技術を教えて欲しい」といわれることもしばしばあります。
IMRTの進化版として、近年VMATが注目されています。これは機械が360度回転し、その間、放射線が連続的に照射される高性能なリニアックです。局所的に高い放射線を照射するのではなく、全方位から弱い線量の照射をすることで、がん腫瘍部分に当たる線量を1とした場合、周りの皮膚や臓器は360分の1の線量の被曝で済みます。
放射線治療科では、医師だけでなく、治療の技術部門を担当する「診療放射線技師」「医学物理士」が活躍しています。彼らは、CTを見て放射線治療の細かな計画を立てたり、診療終了前中後のリニアックのチェックや整備を行なっています。また、実際に放射線を患者さんに照射するのも医師ではなく診療放射線技師の仕事です。
一方で、医師の役目は患者さんの膵臓がん治療全体を見渡し、フォローアップすることです。治療方針を決め、治療計画を医学物理士と協力して作成し、治療中の変化や異常の有無をチェックするほか、治療に効果があったか、治療後に問題が起きていないかなど、アフターフォローをきちんと行うことも大切な役割のひとつです。放射線治療は治療から数年後に障害が出ることもあるので、そこまで見据えた治療計画を行うと同時に長期的なフォローを心がけています。
また、術前術後の患者さんの状態を見守り、今後の治療方法改善にも役立てています。そのため、膨大な治療実績を抱えながら、常に1人1人の病状に合わせた治療方法を検討しています。
大阪府立成人病センターでは、膵臓がん治療に携わるさまざまな診療科が協力して治療にあたっています。膵臓がんの患者さんが外科内科どちらを受診しても、その患者さんにあった治療方法を提供しています。つまり、たとえ内科で診察をしても、必要であれば手術を勧めます。内科外科放射線科合同のカンファレンス(症例検討会)でひとりひとりの患者さんに対する治療方針を決定します。
また、手術を行う外科医、抗がん剤治療を行う内科医の先生が共に優秀で、信頼できる関係性であることも魅力のひとつです。何かあったときは互いに相談し、どの先生もよりよい治療のために尽力しています。
大阪重粒子線センター 副センター長、大阪大学 名誉教授
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