前の記事「膵臓がんと膵嚢胞性腫瘍」で、膵臓がんがなぜ難しいがんなのかについて説明しました。膵臓がんの検査と診断、そして治療の流れについて、膵・胆道領域における外科手術のトップランナーである東京歯科大学市川総合病院副院長の松井淳一先生にお話をうかがいました。
血液検査ではアミラーゼなど膵臓の酵素やCEA、CA19-9などの腫瘍マーカー、黄疸(おうだん)の指標となるビリルビンの数値を調べることで、膵臓がんの発見につながる可能性があります。ただし、一部の数値は膵炎や胆石症などの場合でも異常を示すことがあります。
もっともよく行われるのは腹部エコー(超音波検査)です。健康診断などでも行われていて、検査を受ける人にとって負担の少ない検査です。より詳しく調べるにはCT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像撮影)を行います。
検査の結果、膵臓がんが疑われる場合にはがんかどうかを確実に診断するために、あるいは膵臓がんと診断された場合にはがんの進行度、病期(ステージ)を決定するために、次のような検査を行なうことがあります。
膵臓がんの診断をどのように行なっていくかという流れ(アルゴリズム)については、日本膵臓学会の「膵癌診療ガイドライン」に示されています。
通常はまず血液検査と超音波検査でスクリーニング(ふるい分け)を行ないます。次いでより詳しく調べるには造影剤を使ったCT検査とMRI検査の両方を行うことにしています。ここまでの検査は患者さんに負担がほとんどありません。なお、腫瘍マーカーの結果はあくまでも参考のデータであり、この結果だけで膵臓がんが診断できることはありません。
さらに詳しく検査が必要な場合には、EUS、ERCP、PETの中から選んで組み合わせることになります。EUSでは、胃や十二指腸を介して組織を採取できますし、ERCPでは膵管から膵液や細胞を採取できますので、がん細胞かどうかの病理検査を行います。検査の中には患者さんの身体に負担がかかるものが含まれますが、がんの状態をより正確に知り、最善の治療を受けていただくために必要な検査を追加して行なうのだということを十分に説明してご理解いただくようにしています。
膵臓がんはその進行の度合いによって、0期およびI〜IV期までの病期(ステージ)に分類されます。ステージを決定する因子は次の3つです。
それぞれの因子は、元となっている用語の頭文字からTNMと呼ばれています。これらの組み合わせによってステージ分類を行い、そのステージに応じて最適な治療を患者さんやご家族と一緒に話し合って決定します。
膵臓がんの進行の度合い(ステージ)によって治療方針を決定する際の流れ(アルゴリズム)は、「膵癌診療ガイドライン(2013年版)」に示されています。
ステージ0からIIIの切除可能な膵臓がんについては、基本的に外科的療法(切除術)が行われ、補助療法として抗がん剤を使った化学療法や、放射線治療も用いられます。現在、術後補助化学療法の際にはS-1という抗がん剤を使用することが標準治療として推奨されています。
ステージIVはIVaとIVbに分かれます。ステージIVaであっても切除可能な膵臓がんについては手術を行います。ステージIVaで切除不能なケース、そしてステージIVbの膵臓がんは手術の適応にはならないため、化学放射線療法もしくは化学療法を行います。化学放射線療法とは、抗がん剤による化学療法と放射線治療を組み合わせたものです。患者さんの年齢や全身状態によって両方を行なうことが難しい場合には、化学療法のみを行なうこともあります。
膵臓がんでは手術による切除が根治を得られる唯一の治療です。しかし、ステージIVaやIVbと診断された切除不能な患者さんに対しては、化学療法や放射線療法に加え、苦痛を和らげてQOL(生活の質)を維持・向上させるためのステント治療やバイパス手術、その他緩和ケアを含む支持療法などについて、その患者さんに最も適している治療を説明し相談して考えていきます。
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