東京大学腫瘍外科・血管外科教授の渡邉聡明先生は、大腸がんにおける腹腔鏡手術の第一人者として、患者さんの負担が少ない低侵襲な手術を追求し、ロボット支援下での手術にも取り組んでおられます。東京大学医学部附属病院が導入している手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」による大腸がんの手術方法について、渡邉聡明先生にお話をうかがいました。
大腸がんの治療はここ20〜30年で大きく変わってきました。昔は開腹手術が主流でしたが、1990年代になって腹腔鏡手術が登場してきました。これは非常に低侵襲な手術、つまり患者さんの体を傷つけることが少ない術式ということで始まったものです。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べて傷が小さく痛みも少ないため、術後の回復も早くなるのではないかという期待がありました。ただし、腹腔鏡手術が始まった当初は、技術的あるいは機器的にも今のような状況とは違いましたから、徐々に導入され、広がっていきました。
日本全国の症例を登録しているNCD(National Clinical Database)のデータによれば、現在直腸がんの手術ではその6割強が腹腔鏡で行なわれています。それに対して開腹手術は4割にも満たないというのが現在の状況です。ここに至るまでには実に二十数年の時間を要しているわけですが、その背景には先ほど述べた機器の発達という要因があります。
手術手技の進歩が加速する中、腹腔鏡に替わる新たな低侵襲手術としてロボット手術というものが登場してきました。患者さんの負担が少ない治療として腹腔鏡手術が発達し、さらにその上をいく利点があるのではないかと期待されています。
またモーション・スケーリングといって、術者が手元で動かした距離が縮小され、より精密な動きになるという伝達の仕方も可能になっており、手ぶれ制御の機能も備わっています。また、3Dの立体画像で術野を見ることができます。3D自体は現在、通常の腹腔鏡のモニターにもありますが、カメラが非常に安定しているという利点もあります。
術者の手元では患者さんの体に鉗子が触った感じがわかりません。あるいは、3本のロボットアーム同士がぶつかってしまうという可能性もあります。
ロボット手術は始まったばかりですからまだ非常に初期の段階にあり、今後さらに進化していく余地があります。特にロボットのハードウェア、機器自体が進化してくると考えています。拡張機能が増えてより細かい動きができるようになれば、いずれ腹腔鏡をも凌ぐようになるでしょう。
私が手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」に最初に取り組んだのは2012年初頭のことでした。当時在籍していた帝京大学医学部附属病院に導入されたのですが、その後移った東京大学医学部附属病院でも2012年に7月に導入され、今年で4年目になります。長期成績についてはまだ十分なデータが出ていませんが、短期成績では合併症なども少なく、良好な結果を積み重ねているところです。
ただし、ロボット手術は前述の通りまだ保険で認められていないため、どうしても腹腔鏡下での手術が困難な、厳しい症例がロボット手術の対象になります。そうすると必然的に手術方法に偏りが生まれるため、単純に治療成績で比較することはできません。
東京大学医学部附属病院ではロボット手術を積極的に導入しており、直腸がんの手術数では全国で2番目に多い施設ということになります。しかし日本全体としては、まだ十分広まってはいないというのが現状です。一方、海外でロボット手術の件数が目立って多いのは韓国です。もちろんアメリカもかなり多いのですが、日本の場合、前立腺の手術はかなり多くなっているものの、他の臓器への適応がまだまだ少ないのです。
よく日本の外科医は手術手技の技術水準が高いといわれますが、欧米の方は日本人とは体型も体の組織も大きく異なりますから、手術の難易度にもある程度影響はあると考えられます。ですから、これまで日本の外科医の技術が高く評価されてきたからといって素直に手放しでは喜べませんし、さらに高いレベルを目指すべきであると考えています。
腹腔鏡手術においても3Dのモニターができ、鉗子が新しいものに変わるなど、さまざまな工夫がなされてきたように、やはり手術手技の発展にはデバイスの発達が非常に大きな影響を及ぼすという現実があります。ロボット手術もまたその延長線上にあるといえるでしょう。
東京大学 腫瘍外科・血管外科 教授、東京大学医学部附属病院 大腸・肛門外科および血管外科 科長、東京大学医学部附属病院 副院長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・大腸肛門病指導医日本消化器病学会 消化器病専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本消化管学会 胃腸科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
大腸がん・直腸がんにおける腹腔鏡手術のエキスパート。患者さんの負担が少ない低侵襲な手術を追求し、ロボット支援下での手術にも取り組んでいる。また、がんの根治性と安全性を確保しつつ、排尿・排便機能や性機能を温存してQOL(生活の質)を維持するため、術前化学放射線療法の併用も行っている。大腸癌研究会では「大腸がん治療ガイドライン」の作成委員会の委員長を務めた。
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