膵がんは特徴的な症状に乏しく、発症しやすい危険因子(肺がんにおける喫煙のようなもの)に決定的なものがないため、検診も行いにくく、早期発見が難しい疾患です。
加えて膵がんは進行が早く、症状が出た時にはかなり進行していることが多いため、予後は極めて不良(長く生存できる可能性が低い)です。性別による罹患数の差はあまりありません。
膵がんの重要な危険因子としては次のようなものがあります。
家族歴については、両親・兄弟姉妹の中に二人膵がんがいる場合、膵臓がんになるリスクは6〜7倍という報告があります。これらの危険因子を複数持つ場合は、定期的に人間ドックなどで検査を受けることが勧められています。
主な症状は次の通りですが、症状が出てくる頃には既にがんが進行してしまっていることが多いのが現状です。
膵がんの診断で最も重要なのは、膵がんを疑って診察と検査を受けることです。吐き気や胃の痛みなどの症状しかない時に、胃の検査しか行わずに見逃されてしまう場合もあります。原因がはっきりしない消化器の症状、急激な体重減少、糖尿病の発症など、一見膵臓に関係なさそうな症状でも膵がんを疑って検査を受けることが大切です。
膵がんの検査には血液検査と画像検査があり、膵がんになると以下のような異常が認められます。
下記の項目で数値が上昇します。
下記の検査で膵臓内に腫瘍が認められたり、膵管(膵液が流れる管)の拡張がみえたりします。
膵がんの治療を考えるとき、まず第一に手術で病変を完全に切除できるかどうか判断します。他の臓器への転移がなく、かつ膵臓周囲の主要な血管への広がり(進行)がない場合は、一般的に切除可能と判断します。他に手術ができないような合併症(重い心臓病や肺の病気など)がなければ手術を勧めます。
しかし、切除可能な患者さんは膵がん全体の2-3割にすぎません。
手術で完全に切除できた場合、その後可能な限り、再発予防のため抗がん剤治療(術後補助化学療法)を行います。この術後補助化学療法では、通常「S-1」あるいは「ゲムシタビン」という抗がん剤を用います。
他の臓器への転移はないが、膵臓にある腫瘍が周囲に広がっているために切除不能な場合を「切除不能局所進行例」といいます。全体の膵がん患者さんの2-3割を占めます。
この場合の治療は抗がん剤による「化学療法」または化学療法に放射線治療を加えた「化学放射線療法」が行われます。
どちらも標準の治療として行われますが、「化学放射線療法」は患者さんへの負担がより大きく、また放射線治療の設備がある病院でしか行えません。加えて、放射線療法と化学療法の組み合わせる具体的な治療法が十分に確立されておらず、化学療法だけ行った場合よりも有効かどうかも明らかにはなっていません。したがって、現在のところ化学療法が切除不能局所進行例の主要な治療法となっています。
膵臓だけでなく、他の臓器や離れたリンパ節にがんが転移してしまっている状態です。転移する臓器として、肝臓、腹膜、肺などが挙げられます。全体の膵がん患者さんの約5割を占めます。
この場合は抗がん剤による治療(化学療法)が主なものとなります。「化学療法」と一口に言っても、内容はこの1年で大きく変わってきています。現在、遠隔転移例の化学療法でまず第一に行うことを検討する治療として、次の2種類があります。
フォルフィリノックス療法は4つの薬剤(フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、オキサリプラチン)を組み合わせた治療法であり、日本では2013年12月に適応が承認された新しい治療法です。最も強力で高い治療効果が期待できる治療法ですが、一方、副作用も大きいため、全身の状態が良く、非高齢者に適しています。例えば転移はあるが症状もほとんどなく、若くて元気な患者さんに勧められる治療です。つまり、フォルフィリノックス療法は慎重な判断のもとに実施することが必要です。
2014年の12月に新たに保険適用となった治療法です。やや高齢でも使用でき、フォルフィリノックスより簡便な治療であり、多くの患者さんに使えます。海外データでは、フォルフィリノックスよりも少し効果が落ちる成績が報告されていますが、日本人を対象とした臨床試験では、フォルフィリノックスと同等以上の効果が報告されています。
この2つの治療が難しい場合は、ゲムシタビン単独療法、ゲムシタビン+エルロチニブ併用療法、S1単独療法という薬の種類を変えた3つの治療法の中から、患者さんの状況に合わせて選択します。
記事1:肝臓がん(肝がん)とはどんな病気?わかりやすく説明します
記事2:膵臓がん(膵がん)とはどんな病気?わかりやすく説明します
記事3:腫瘍マーカーとは―腫瘍(がん)細胞が作り出す物質
記事4:転移性肝がんとは―症状、検査、治療方法
杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授
杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授
日本内科学会 認定医・内科指導医日本膵臓学会 評議員・認定指導医日本臨床腫瘍学会 協議員・暫定指導医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本癌治療学会 会員日本癌学会 会員日本胆道学会 会員JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ) 肝胆膵グループ代表
千葉大学で門脈亢進症など肝疾患の臨床と研究に従事する。その後、国立がんセンター東病院にて15年半、肝胆膵がんの診療と研究に携わる。1990年代は超音波診断、IVR等の仕事を主体としていたが、1990年代後半から化学療法や化学放射線療法を積極的に取り組む。2008年3月より杏林大学医学部に移動し、腫瘍内科学教室を立ち上げ、現在に至る。新規治療開発や臨床試験の研究グループなどネットワークの組織作りなど、がん治療の進歩に貢献すべく取り組んでいる。
古瀬 純司 先生の所属医療機関
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