心房細動とは不整脈の1つで、心房を流れる電気信号が異常をきたし不規則に震えるため、心臓の興奮が乱れている状態を指します。原因はさまざまですが、主に加齢によって発症するため、高齢化によって2010年には80万人程度だった患者数が2030年には100万人を突破するともいわれています。
心房細動の治療では主に、塞栓症の原因となる血栓を予防するための抗凝固療法、心房細動の症状を緩和させる薬物療法、薬を使用しない根治を目指すアブレーション手術が選択されます。本記事では、心房細動を発症した場合に行われる治療について詳しく解説します。
心房細動を発症すると心房の中に血液が滞ることで血栓(血の塊)が生じ、それが血管に詰まることで脳梗塞などの塞栓症を合併する頻度が高まるといわれています。そのため、塞栓症のリスクが高いと判断された場合は、血液を固まりにくくする薬で血栓を防ぐ治療“抗凝固療法”が検討されます。
抗凝固療法は主に塞栓症のリスクが高いと判断される人に行われます。ガイドラインではCHADS2(チャッズ)スコアが1点以上となると、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)による抗凝固療法が行われることが一般的です。なお、抗凝固療法の治療薬についてはDOAC以外に、以前から使用されていたワルファリンという薬もありますが、薬の量のコントロールが難しく、脳出血などのリスクもあるといわれています。
ただし、僧帽弁狭窄症と弁膜症の術後で機械弁を使用している患者や透析患者、重篤な腎不全を合併している場合などはDOACの効果が明らかになっていないため、ワルファリンが用いられることが一般的です。このように抗凝固療法では、患者の合併症の有無や体の状態を踏まえて使用する薬剤やその量を検討していきます。
チャッズスコアとは、塞栓症のリスク判定にもちいられるものです。心不全(C)、高血圧(H)、高齢者(年齢=A、75歳以上)、糖尿病(D)を各1点、脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往(S)を2点として点数をつけ、点数が高いほど塞栓症のリスクが高いと判断します。
症状の緩和や心拍数のコントロールのために薬物療法が行われることもあります。心房細動によって脈が速くなる(頻脈)と動悸などの症状が現れることがあり、症状が強い場合は心拍数を抑える目的でβ遮断薬などの薬、正常なリズムに戻す(除細動)目的で抗不整脈薬の処方が検討されます。
心筋梗塞の既往がある人や心肥大と診断を受けている人などは、心房細動が心不全につながることがあるため、心房細動の再発予防や除細動目的で抗不整脈薬の処方が検討されます。
ただし、薬物療法によるコントロールには限界があり、心不全を発症すると抗不整脈薬が処方できないことも多いため、根治のためにはカテーテルなどによるアブレーション手術が検討されます。
心房細動の根治治療として、カテーテルや風船などを用いたアブレーションという手術があります。カテーテルによるアブレーションは、心房細動の原因となる異常電気信号の元となっている箇所を焼く治療法です。この手術を行った場合に根治または状態が改善される確率は、発作性心房細動(数時間~1週間程度で自然に治まる心房細動)で70~80%程度、持続性心房細動(発作を繰り返し7日以上持続する心房細動)で60~70%程度といわれています。ただし、慢性心房細動(1年以上長期持続)では50~60%程度となってしまうため、慢性化する前に早めに治療を行う必要があります。
基本的に安全な手術ではありますが、心タンポナーデ、心臓周辺の臓器(食道)への障害、神経障害、塞栓症などのリスクもゼロではありません。
アブレーション治療は主に薬物療法では症状の緩和が不十分な人や根治治療を希望する人に対して検討されます。
ただし、治療によって合併症が起こる可能性もあるため、医師と相談のうえで治療方法を選択することが必要です。
心房細動自体は命に関わる状態ではありませんが、放置すると脳梗塞や心不全を招くことがあるため、早い段階で適切な治療を行う必要があります。治療には、抗凝固療法を含む薬物療法、アブレーション手術などさまざま方法があり、治療目的や心房細動の状態などによって適切な方法を選択します。そのため、治療については医師とよく相談し、納得したうえで受けられるとよいでしょう。
根治手術は病気が持続化、慢性化する前に行うほど治療の経過がよいとされているため、診断を受けていない場合や気になる症状があれば循環器内科やかかりつけ医の受診を検討するとよいでしょう。
横浜南共済病院 循環器内科 総括部長
横浜南共済病院 循環器内科 総括部長
日本循環器学会 循環器専門医・FJCS日本心臓病学会 FJCC日本不整脈心電学会 不整脈専門医・植込み型除細動器(ICD)/ペーシングによる心不全治療(CRT)研修修了者日本心臓リハビリテーション学会 心臓リハビリテーション指導士日本救急医学会 会員日本高血圧学会 会員日本内科学会 認定内科医・内科指導医日本医師会 認定産業医
東邦大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学第三内科(現:循環器内科)へ入局。その後、市中病院での研修や海外留学を経て、2001年に亀田総合病院の循環器内科医長、2004年には部長に就任。2018年4月より現職。循環器疾患の中でも、特に不整脈と心不全を専門としている。日々の診療に尽力する傍ら、講演や研究会なども積極的に行っている。
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