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がん克服へ向けた「知の挑戦」――小川 誠司先生に聞くがん研究の歩み(前編)

公開日

2026年08月17日

更新日

2026年08月17日

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2026年08月17日

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第85回日本癌学会学術総会が2026年9月24〜26日、国立京都国際会館(京都市左京区)で開催されます。今大会のテーマは「がん克服へ向けた知の挑戦」。がんは依然として多くの人の命に関わる病気ですが、研究の積み重ねによって、かつては治療が難しかった一部のがんで、予後が大きく変わってきた歴史があります。学術会長を務める京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学講座 教授の小川 誠司(おがわ せいし)先生に、テーマに込めた思いとがん研究の歩み、日本癌学会の役割について伺いました。

「知の挑戦」の積み重ねで進歩を遂げたがん治療

今回の学術総会では、がん研究の本質を伝えたいという思いを込めて、「がん克服へ向けた知の挑戦」というテーマを掲げました。“ローマは1日にしてならず”という言葉があるように、がんは一朝一夕で克服できるものではありません。かつては「治らない」とされていたがんに対して、効果が期待できる薬が登場してきている背景には、がんを克服したいという強い思いを持った研究者たちにより積み重ねられてきた「知の挑戦」があります。

私が医師になったころ、薬物療法によって治癒を目指せるがんは小児の急性リンパ性白血病など一部のがんに限られていました。早期に発見して手術で取り切らない限り治癒を目指すことは難しく、進行したがんを長期にコントロールすることは非常に困難な時代だったのです。その状況は、この40年ほどで大きく変わってきました。たとえば、慢性骨髄性白血病はかつて非常に予後が悪い病気で、診断から数年で命に関わる状態になるケースが多くありました。しかし、病気の原因となる遺伝子の理解が研究によって深まり、それを標的にした分子標的薬(がんに関わる特定の分子を狙う薬)が開発された結果、今では完治に近い状態が目指せる病気へと変わりました。他にも、非小細胞肺がんの一部では、がんに関わる遺伝子変化を標的とする治療が登場し、大きな治療効果が得られる例が報告されるようになっています。40年前には想像もできなかった進歩が得られたのは、知の営みが積み重ねられてきたからに他なりません。

一方で、いまだ治療が難しいがんも多くあります。膵臓がんはその代表的な1つで、ごく早期に発見できた例を除けば、治癒を目指すことが難しい状況が続いています。しかし最近、膵臓がんに対する新薬の臨床試験において、進行した膵臓がんの方の生存期間を2倍に延長させるという非常に画期的な報告がありました。治療が難しいがんにも新たな道が開かれてきている歴史を振り返ると、いまだ治療が難しいがんに対しても、将来同じような変化が起こる可能性は十分にあると考えています。

クローン性造血など注目のトピックを中心に

本総会では、がんゲノムやがん免疫の話題に加えて、クローン性造血とそれに関連した体細胞モザイクに関する話題など、近年注目を集めているトピックをプログラムに取り入れました。クローン性造血は、加齢とともに特定の遺伝子変化を持った血液細胞が体の中で増殖する状態を指し、前がん状態ともいわれます。たとえば、白血病は血液細胞の遺伝子変異により発症しますが、その遺伝子変異はがんを発症していない方にもみられることが分かっています。つまり、白血病につながる遺伝子変異はがんを発症するずっと前から生じており、何十年もの月日を経るごとにその変異が積み重なり、白血病の発症に至るとされているのです。白血病であれば、受精して数週間後に最初の遺伝子変異が起こっていることも分かってきています。また、こうした遺伝子変異を持つ細胞と持たない細胞とが体の中に混在している状態を体細胞モザイクと呼びます。

がんはある日突然発症するものではありません。新たな研究領域として注目されている「がんになる前の変化をどう捉えるか」というトピックについて、総会を通して貴重なお話が聞けると思います。

日本癌学会が果たす4つの役割

知の挑戦を今後も続けていくために、日本癌学会が果たしていく役割は大きく4つあると考えています。

1つは、がんの基礎研究の推進です。がんに関する国内の主要学会には、がん治療を扱う「日本癌治療学会」、がんの薬物療法に特化した「日本臨床腫瘍学会」、そしてがんの基礎研究を担う「日本癌学会」があります。がんの基礎研究なくして、がんの克服は不可能です。なぜがんが起こるのか、どの分子を標的にすればよいのか――科学の力でその問いに向き合うことがなければ、治療のあり方を変えるような発見は生まれません。基礎的なブレークスルーを発見していくことが、私たち日本癌学会が担うべき非常に重要な役割だと考えています。

2つ目は、若手の育成です。基礎研究を発展させていくためには、次の世代を含めた研究の担い手を育て、広げる必要があります。少子化によって研究者人口そのものが減少していくなか、これまで以上に多様な人材にがん研究に参画してもらう必要があります。次世代の研究者が研究の面白さや意義を感じ、人と出会い、共同研究につながる人間関係を築ける場をつくることに加えて、女性をはじめとする多様な背景を持つ研究者が力を発揮しやすい環境を整えていくことも重要だと考えています。本総会では、若手の育成や女性科学者の参画の推進につなげる企画を用意しています。

3つ目は、異なる分野や立場をつなぐ橋渡しの役割です。がん研究は、基礎研究者や臨床医だけで完結するものではありません。患者さんやサバイバー、ご家族、患者会、医療スタッフ、製薬企業、研究支援機関など、多様な立場の人々が関わっています。こうした人々が互いの視点を共有し、研究を患者さんや社会につなげていく場をつくることも、日本癌学会の役割です。

4つ目は国際化です。日本は国際化してきているように見えても、まだまだ国内での議論に閉じてしまっていると私は感じています。がん研究を発展させるには日本だけでは限界があります。総会では、アジアの研究者を招いたシンポジウムや米国癌学会(AACR)との合同シンポジウムを予定しているので、海外との交流を深めるきっかけにしていただければと思います。

知の挑戦を次の世代へつなぐために

がん研究の成果は、1人の研究者の発見だけで生まれるわけではありません。無数の挑戦が積み重なり、時に予想外の場所から突破口が開かれます。何度失敗をしても絶えずチャレンジを続ければ、いつか治療のあり方を変えるような成果が生まれてくることがあるのです。第85回日本癌学会学術総会は、その知の挑戦を共有し、次につなぐ場です。

後編では、患者さん・サバイバーとの対話、次世代を担う研究者を育てる取り組みなど、「知の挑戦」をさらに広げていくための総会プログラムをご紹介します。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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