連載特集

膠原病の病態を映し出す自己抗体と治療選択――日本リウマチ学会第12回連携ウェビナー

公開日

2026年08月21日

更新日

2026年08月21日

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2026年08月21日

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一般社団法人日本リウマチ学会と株式会社メディカルノートによる第12回連携ウェビナーが2026年6月22日に開催されました。今回は「全身性リウマチ性疾患における自己抗体up-to-date」をテーマに、日本医科大学 医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授の桑名 正隆(くわな まさたか)先生が登壇されました。自己抗体を用いた膠原病の早期診断・発症リスク評価や、一人ひとりの病態に応じた治療選択、そして臨床現場における検査のあり方について、講演の内容をダイジェストでお届けします。

早期診断や発症リスクの評価に応用可能

関節リウマチや全身性硬化症(強皮症)、筋炎と呼ばれる特発性炎症性筋疾患などの“膠原病”の診療において、患者さんの血液中に検出される自己抗体*は、診断の補助や病型分類、さらには疾患活動性や治療効果の判定に有用なバイオマーカーとして広く活用されています。

一方で、自己抗体は病気が発症する前から血液中に検出されることが知られています。たとえば関節リウマチでは、関節の症状が現れて診断される数年前から、抗CCP抗体やリウマトイド因子という自己抗体が血液検査で陽性になります。つまり、自己抗体の産生は症状の出現に先行し、病態の上流に位置しています。自己抗体産生の仕組みを紐解くことができれば、膠原病の発症メカニズムを解明できる可能性もあるのです。

*自己抗体:免疫の異常によって産生された自分の体の組織を認識してしまう抗体のこと。

病気の予後や治療の効果を予測

自己抗体は、単に病気の診断にとどまらず、将来の経過や予後を予測し、適切な治療を選択するうえでも重要な役割を果たします。

たとえば、皮膚硬化を主な症状とする強皮症において、“抗トポイソメラーゼI抗体”が陽性の患者さんと、“抗RNAポリメラーゼIII抗体”が陽性の患者さんでは、経過が異なります。前者は発症から5年ほどかけて徐々に皮膚硬化や間質性肺疾患という肺の病気が進行するため、発症から数年を経ていても多くの患者さんが治療の適応になります。一方、後者は急速に皮膚硬化が進行し、腎クリーゼという腎機能が急速に低下する病気をおこすリスクが高まりますが、1年程度で皮膚硬化は自然に改善に向かい、腎クリーゼなど内臓病変の発症リスクも低下します。そのため、発症から1年程度であっても皮膚硬化が改善傾向であれば治療を要しません。

筋炎に伴う間質性肺疾患においても、自己抗体の種類によって治療反応性や予後に違いが生じます。日本の前向き多施設コホートデータによると、“抗ARS抗体”が陽性の患者さんは治療の反応性がよく、再発することはあっても長期的な生命予後は悪くありません。これに対し、“抗MDA5抗体”が陽性の場合、急速進行性の経過で呼吸不全となり、発症から半年以内に約3分の1の方が命を落としています。これらの知見から、日本の診療ガイドラインにおいて、自己抗体は治療可否の判断や選択に中心的な役割を果たしています。

自己抗体検査に求められる高い信頼性

このように、診断や治療方針の決定など診療の判断に大きな役割を果たしている自己抗体ですが、その前提として結果が正確であることが求められます。そのため、私たちが使用している、体外診断用医薬品として薬事承認を得た自己抗体の検査キットは、保険診療で用いられるまでに非常に厳密なプロセスを経ています。研究者によって新しい自己抗体が発見されても、その測定がすぐに保険適用となるわけではありません。PMDA(医薬品医療機器総合機構)が求める臨床性能試験をクリアし、常に一貫して正確な結果が得られることを膨大なデータによって示す必要があるのです。

私たちの研究グループが開発した前述の“抗MDA5抗体”を測定する検査キットも、保険収載まで6年を要しました。抗MDA5抗体が陽性であれば救命のために強力な治療を要することから、正確な検査キットを作成する必要がありました。現在、陽性・陰性がほぼ100%正確に判別できるキットが診療で広く用いられ、診療ガイドラインの推奨に沿った治療を行うための臨床判断の根拠となっています。

現在も自己抗体の研究が進められており、特に筋炎において多くの自己抗体の臨床的有用性が示されています。しかし、臨床的に有用とされながらもいまだ保険診療で測定できない自己抗体も少なくありません。これら自己抗体の測定キットが体外診断用医薬品として実用化されれば、自己抗体の種類に応じて特定の分子標的薬を投与するなど、個別化医療の実現に貢献するでしょう。今後も保険収載に向けた取り組みが進むことが期待されます。

“基本に立ち返る”診断プロセスの徹底を

このように自己抗体は膠原病の診断や治療薬の選択などにおいて非常に有用なツールですが、ピットフォール(落とし穴)の存在も念頭に置く必要があります。現在保険収載されている検査キットであっても、低頻度ながら“偽陽性”や“偽陰性”は起こり得ます。そのため、自己抗体検査の結果は、あくまで総合的な判断要素の1つとして活用することが前提です。

それでは、自己抗体検査の結果をどのように解釈すればよいのでしょうか。それは“基本に立ち返ること”に尽きます。まずは患者さんの症状や臨床所見から疾患を疑い、そのうえで基本的なスクリーニングとして“抗核抗体検査”を行います。そして、これら総合的な情報から想定される自己抗体を想定し、それらに対する自己抗体検査を進めることが、信頼性を担保しつつ医療経済も考慮した確実なプロセスです。

自己抗体は、単に疾患や臨床症状と関連する指標ではありません。患者さんの体の中で起こっている病態そのものを映し出し、適切な治療薬の選択や予後改善に向けた総合的な戦略を立てるために欠かせないツールです。今後も私たちはこのツールを正しく活用し、膠原病領域におけるアンメットニーズの解決に寄与していきたいと考えています。

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