「がん克服へ向けた知の挑戦」をテーマに、2026年9月24〜26日、国立京都国際会館(京都市左京区)で第85回日本癌学会学術総会が開催されます。本総会では、がん研究に関わる魅力的なプログラムが多数用意されています。学術会長を務める小川 誠司(おがわ せいし)先生(京都大学大学院医学研究科 腫瘍生物学講座 教授)に、総会の注目プログラムについてお話を伺いました。
今年の学術総会でも、がん患者さんやサバイバー、そのご家族と研究者が交流し情報交換を行う「サバイバー・科学者プログラム(SSP:Survivor・Scientist Program)」を開催します。日本癌学会として約10年にわたり行ってきた取り組みで、プログラムの規模も年々拡充してきています。患者さんやサバイバーだけでなく、研究者の参加人数も年々増えてきていて、患者さん自身が自分の病気について調べてきた内容を発表し、それに対して研究者がコメントをしたり、議論を行ったりする場面が生まれています。
SSPは研究者が患者さんと対話できる貴重な機会です。研究者の中には、理学部出身者など患者さんと直接対面したことがない人も多くいます。当事者としてがんの脅威に直接向き合っている患者さんの本当の思いやニーズは研究室の中からでは見えにくい部分も多く、患者さんの視点と、研究者や医師の視点は、必ずしも同じとはいえないのが現状です。
基礎研究だけが研究ではありません。たとえば、リハビリテーションや社会復帰に向けた支援に関する研究も、患者さんの生活の質(QOL)を高めるために必要不可欠です。全ての研究は患者さんのためにあります。患者さんのニーズを常に念頭に置きそれを踏まえた研究こそが、がん研究の意義を支えるのだと思っています。
がん研究の発展のために欠かせないのが「若手の育成」です。その一環として、若い人たちに研究の意義や面白さを知ってもらい、若手が活躍できる土壌をつくるために「若手研究者 Meet Up 2026」を企画しました。学術総会前日に、琵琶湖湖畔の研修施設(守山パーク)で行う合宿形式の交流会です。初日はがん研究に携わる若手(主に大学院生、ポスドク、助教クラスの人)とシニア研究者が一堂に会し、時間をかけてディスカッションを行います。そして2日目は、そのままバスで学術総会の会場に移動するという設計です。昔は文部科学省の支援で若い研究者を集めた合宿型の研修が行われていました。その場で出会い、議論した仲間が、現在の日本癌学会を牽引する研究者たちの基盤となっているのです。そうした機会が少なくなった今、同じような場を改めてつくりたいと考えました。共同研究は人と人とのつながりから生まれます。お互いを知り、議論することが、その後の研究の展開に大きな役割を果たします。
また、総会で若手が発言しやすい環境を整えるために、海外演者の講演には自動翻訳・字幕表示を導入するとともに、日本語のセッションを増やしました。若手の中には、英語に苦手意識を持っている人も少なくないようで、英語のセッションでは質問や発言に躊躇する場面も見受けられます。国際化を進めることは重要ですが、同時に若手の参画を促すことも欠かせません。まず議論が起こること、質問できる総会にしたいのです。
次世代の育成とともに、今後より重要になってくるのが女性研究者の参画です。少子化に伴い研究者人口が減少していくなかで、がん研究の発展を維持するために女性研究者の存在は必要不可欠です。また、日本では昔に比べて女性研究者は増えつつあるものの、諸外国に比べて女性が指導的な立場を担う機会はまだ不十分な状況があります。そこで本総会では「がん研究における女性科学者シンポジウム」と題した特別シンポジウムを開催します。科学雑誌『Nature』で活躍している女性編集者などをお招きし、海外の状況も踏まえながら、どうすれば女性科学者が増え、彼女たちが活躍できる場がつくれるのかなどについて議論が行われる予定です。
日本におけるがん関連の主要学会である日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会による3学会合同シンポジウムも本総会の大きな目玉です。合同シンポジウムはAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)主催のもと「生涯を通じた攻めのがん予防の実現 ~多様な研究アプローチ~」というテーマで行われます。AMEDの理事長である中釜 斉(なかがま ひとし)先生の講演をはじめ、各学会が合同で日本のがん研究の現状と展望、そしてAMEDがどのようにそれを支援していくかを議論します。
これまで学術総会のプログラムは主催校が一から考えていましたが、今年は日本癌学会に新たに設置された「学術企画委員会」で議論し、プログラム全体を構成しています。主催校はその年の特色を出す企画に集中し、それ以外の全体のプログラム構成は委員会で行うことで、学術総会の標準化・効率化を目指すことができます。委員会には若い世代の人たちにも参加してもらっていて、応募で集まった演題の評価・採択も委員会で行っています。こうした新たな試みによって、今年はさまざまな魅力あるプログラムをご用意できていると思います。
今年の学術総会は秋の京都で開催されます。観光も兼ねて、ぜひ京都の地に足を運んでいただければと思います。活発なディスカッションと交流の場になることを期待しています。
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