乳がんの手術によって、失われたり変形したりした乳房の形を整える「乳房再建」。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会は2012年の設立以来、日本乳癌学会と日本形成外科学会が手を携え、乳房再建に関するさまざまな活動を行ってきました。第14回総会は2026年10月8~9日に「形成外科と乳腺外科の融合 -Bridging across the Disciplines-」をテーマに掲げ、TAKANAWA GATEWAY Convention Center(東京都港区)で開催されます。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会理事長で同総会の会長を務める石川 孝先生(東京医科大学 乳腺科学)に、乳房再建を取り巻く現状と課題、総会に込めた思いについて伺いました。
日本において乳がんで乳房を全切除した患者さんのうち再建術を受けた方は13%と、欧米や韓国の50%と比較すると低い割合です。乳房再建の普及や啓発はまだ十分とはいえず、特に地域による格差は課題と考えています。東京などの大都市では乳房再建について情報を得たり、再建を行う医療機関へのアクセスが比較的得やすい一方、地方では再建という選択肢を知る機会が限られたり、対応できる医療機関が身近になかったりする場合があります。ただ、単純に「日本の再建率を上げればよい」とは考えていません。大切なのは、再建を希望する患者さんに必要な情報と機会を届け、その方がご自身の希望に沿って選択できる環境を整えることです。
近年、乳がんの薬物療法は大きく進歩しており、将来的には手術を必要としない患者さんが増えていく可能性もあります。一方、現時点では手術が必要な患者さんも多くいらっしゃいます。
乳がんの手術では、がんを適切に切除することが大前提です。そのうえで私が大切にしているのは「いかにきれいに取り、いかにきれいに直すか」という視点です。手術後の乳房の見た目や形は患者さんの生活の質(QOL)にも関わるため、薬物療法が進歩するなかでも、私たち外科医がこうした手術の質にも目を向け続けることが大切だと考えています。これは、乳房を全て切除した後の再建だけでなく、乳房温存手術で切除後の形を整える工夫にも当てはまります。
こうした治療を実現するうえで重要になるのが、乳腺外科と形成外科の連携です。乳がんの切除は乳腺外科、再建は形成外科が担うのが一般的ですが、乳腺外科がどのように切除するかによって選択できる再建方法も変わります。そのため手術前から両科が密接に連携し、切除と再建の両方を見据えて治療方針を考えておくことが大切です。
再建には、インプラントなどの人工物を用いる方法と、お腹や背中などの自分の組織を用いる方法があり、それぞれ体への負担や傷の位置などが異なります。どちらが適しているかは病気や体の状態だけでなく、患者さんの職業やライフスタイル、希望する乳房の形によっても変わるため、乳腺外科医と形成外科医がそれぞれの視点を持ち寄り、手術前から患者さんと一緒に選択肢を検討することが重要です。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会は、乳腺外科と形成外科の医師がほぼ半数ずつを占める学会です。両科では専門とする領域や手術に対する視点に違いがあるからこそ、知識や技術を共有し、連携を深めていく余地があると考えています。私は2024年10月から理事長として、両科が話し合う機会を増やすことに取り組み、その集大成として今回の総会では「形成外科と乳腺外科の融合 -Bridging across the Disciplines-」をテーマに掲げました。
乳腺外科の切除技術も、形成外科の再建技術も変化しています。形成外科の先生方には、乳房の見た目や形を整えるために培ってきた高い専門性があり、乳腺外科の医師には、がんを適切に切除しながら再建につなげていく知識や技術があります。両科がそれぞれの専門性を持ち寄って議論することが重要であり、今回の総会では乳腺外科と形成外科が一緒に議論するプログラムを多数用意しています。
今回は、韓国や台湾からも多くの先生方をお招きします。乳房再建を取り巻く制度や両科の役割は国によって異なるため、そうした違いを知り、それぞれの取り組みから学ぶことができればと考えています。さらに、看護師などのメディカルスタッフや患者会の方々も交えて、よりよい乳房再建について多角的に考えるセッションも予定しています。
また、一般の方を対象とした市民公開講座も開催します。何よりも大切なのは乳がんと診断されたら適切な治療を受けていただくことです。そのうえで、その後の選択肢の1つとして再建について考えていただきたいと思っています。特別企画として、乳がんの診断から再建の術式を決めるまでの診察室での模擬体験も予定しています。10月2日まで事前申込みを受け付けています(URL: https://www.congre.co.jp/jopbs2026/files/openlecture.pdf)。多くの方のご参加をお待ちしております。
私自身は、全ての患者さんが乳房再建をするべきだとは考えていません。再建をしないという選択も同じように尊重されるべきです。再建率という数字だけを重視すると、再建を希望しない方に心理的な負担を与えてしまう可能性もあります。
一方で、再建を望む方が必要な情報や医療にアクセスでき、その方に適した方法を検討できる環境は整えていく必要があります。そのためには、医療者だけでなく患者さんや一般の方にも乳房再建という選択肢や、それを取り巻く課題について知っていただくことが大切だと考えています。乳腺外科と形成外科が互いの専門性を活かし、一人ひとりの患者さんが自分に合った選択ができる医療を目指していきたいと思っています。
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