大腸がんの検査は、便潜血検査や内視鏡検査、CT/MRIによる画像診断などが中心です。また大腸がんの診断は、さまざまな検査の結果からがんの深さや転移の状況を確認したうえで、総合的に行われます。大腸がんの検査と診断の流れについて、渡邉純先生に教えていただきました。
大腸がんは、がんが周辺臓器や他臓器に広がっていない初期の段階で見つけることができれば、大腸がんが治る確率(5年生存率)は95%以上といわれています1。その一方で、進行した状態で発見されてからでは、治療が困難になることがあります。症状がないのに検査をするのは億劫に感じるかもしれませんが、がんを早期発見するためにも積極的に大腸がん検診を受けていただきたいと考えます。なお、有効性評価に基づくがん検診ガイドラインでは、便潜血検査を行うことを推奨しています。
大腸がんの検診には、対策型検診と任意型検診の2種類があります。
1全国がんセンター協議会. “生存率共同調査(2018年6月集計)”. 千葉県がんセンター研究所がん予防センター
市区町村などの自治体や職場が主体となって行う大腸がん検診です。40歳以上の方が対象で、1年に1回受診することがすすめられています。対策型検診での便潜血検査は公費の補助により行われ、任意型検診に比べて少ない自己負担で検査を受けることができます(自己負担額は自治体によって異なります)。
大腸がんで死亡する確率は40歳を過ぎると急に上昇し始めるため、40歳以上の方は定期的に検診を受け、がん予防と早期発見を意識することが大切です。
個人の希望により行う大腸がん検診です。検査を行う施設により、受ける検査の内容が異なります。便潜血検査のほかには、全大腸内視鏡検査、S状結腸内視鏡検査、便潜血検査+S状結腸内視鏡検査、注腸造影などがあります。
大腸がんの検査の基本になるのが「便潜血検査」で、先述のとおり、市区町村が主体となって行っている大腸がん検診でも採用されています。
便潜血検査とは、別名ヒトヘモグロビン法といわれ、名前のとおり便に血が混じっていないかを検査します。大腸がんでは、多くの場合出血をきたしますが、出血量は少量で、目には見えません。そのため、血液の主要成分の1つであるヘモグロビンが便に含まれていないかを調べて、大腸がんの可能性を確認しようという方法です。
便潜血検査を行う目的は、「大腸がんかどうかを判断する」というより、「大腸がんの確率の高いグループと低いグループにふるい分ける」ことです。そのため、便潜血検査が陽性となっても、実はその約95%以上の方は大腸がんではないとされています。これは大腸がんを見逃さないよう、便潜血検査で少しでも大腸がんの可能性があれば「疑いがある」と判定するためです。
また、この検査では痔などによる肛門からの出血でも陽性が出てしまいます。一方、胃や十二指腸の少量の出血は消化されてしまうため反応しません。
便潜血検査で陽性が出た方は、陰性の方と比べると、がんの確率は最大約10倍といわれています。大腸がん検診で便潜血検査を受け、陽性が出たら、医療機関でより詳しい検査をするためのよいきっかけだと思いましょう。ただし、大腸がん検診で陰性(便潜血反応陰性)の場合でも、がんである可能性がゼロというわけではありません。
便潜血検査で陽性結果が出た場合は、大腸内視鏡やバリウムを使用した大腸透視などの精密検査へと移ります。
精密検査では、まず内視鏡検査(小型カメラが取り付けられた内視鏡を用いて大腸内を観察する検査)を行います。
がんが見つかれば、注腸造影検査(肛門からバリウムと空気を注入してレントゲン撮影を行う検査)、さらに転移の有無や転移部位を確認するために、胸部腹部CTや腹部超音波検査、MRIなどの検査が行われます。
以下に、各検査の概要を説明します。
小型カメラが付いた内視鏡を肛門から入れて検査をします。モニターにて大腸の状態を詳しく調べることができ、細胞の採取や小さな腫瘍の切除もできます。前日か当日に下剤を飲む必要があります。
内視鏡を肛門から入れて大腸の全体を調べます。全体を見るため、大腸がんをほぼ発見できることがメリットですが、検査中に出血するリスクがあるなどのデメリットもあります。
メリットは全大腸内視鏡検査よりも検査前の処置が容易なこと、デメリットは全大腸内視鏡検査よりも検査できる範囲が狭くなることです。
バリウムと空気を肛門から注入し、大腸のレントゲンを撮影します。がんの位置や大きさなどを確認できますが、前日から繊維質の少ない食事をしたり、前日に下剤を飲み大腸を綺麗にしたりするなどの事前準備が必要です。
注腸造影では、大腸に造影剤(バリウム)を注入し、X線で撮影します。癒着(組織同士がくっつくこと)や痛みがあり内視鏡検査を行えない場合、注腸造影を用いることがあります。
メリットは、内視鏡を入れることができない方でも検査が行えることです。デメリットは、精度の面で大腸内視鏡検査に劣ることと、検査前の処置や検査中の体への負担が大きいことです。
大腸がんが進行してリンパ節へ転移すると、がんが全身に遠隔転移します。そのため、がんが重症化しリンパ節への転移の可能性があるときには、胸部X線検査で肺への転移がないか検査を行います。
超音波を腹部に当て、がんの位置の確認や、肝臓・リンパ節に転移していないかなどを調べることができます。
コンピュータ断層撮影検査とも呼ばれる検査で、体を輪切りに画像化し、がんの位置・形・大きさ、肝臓やリンパ節などに転移がないかを調べます。注射で血管に造影剤を入れて撮影することもあります。
磁気共鳴画像法ともいいます。磁石を使用し、CT同様、体を輪切りに画像化します。
陽電子断層撮影法ともいいます。がん細胞は正常な細胞に比べ、約3~8倍のブドウ糖を取り込みます。この性質を利用し、ブドウ糖の取り込み分布を撮影し、全身へのがんの転移を検査します。
大腸がんの発生には、大腸の内側の粘膜にできた良性の腫瘍(ポリープ)が変化して悪性の腫瘍(がん)になる場合と、初めから粘膜にがんが発生する場合の2つがあるといわれています。
いずれも粘膜で発生し、大腸壁の外側の層に向かって進行していき、やがてリンパ節やほかの臓器に転移します。
このような進行過程のなかで、早期大腸がんと進行大腸がんは次のように分けられます。
大腸がんは大腸に発生する悪性腫瘍であり、そのステージは深達度・リンパ節転移・遠隔転移という3つの観点で区別されています。どのステージにあるかは、精密検査で把握することができます。
大腸の壁は5層からなり、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜と呼ばれています。
粘膜は直接便に触れる腸管の最表面で、大腸がんはまずここで発生します。この粘膜で留まっている状態のがんは、深達度Tisに分類されます。
粘膜下層は粘膜の下に位置する層で、血管やリンパ管が多く存在します。この粘膜下層まで進行した状態は深達度T1に分類され、転移の可能性が出てきます。
次いで、固有筋層は大腸を動かす筋肉の層で、ここまで達した状態は深達度T2に分類されます。
そして、固有筋層を超えて進行した状態は深達度T3に分類され、血管やリンパ管の通り道である漿膜下層まで進行していることになります。さらに、大腸の最外層である漿膜まで達する、あるいはこの層を超えると深達度はT4に分類され、周辺の臓器にまで浸潤する可能性が出てきます。
体内の組織にある物質を運ぶリンパ液が通る管をリンパ管と呼び、そのリンパ管同士がつながっているリンパ節に大腸がんが転移する可能性があります。リンパ節への転移状態によって、次の3つに分類されます。まったく転移がみられない状態をN0、リンパ節への転移が1~3個存在する場合をN1、4個以上存在する場合をN2と分類します。
大腸がんは肺や肝臓、腹膜などに転移することがあります。このようなほかの臓器への転移が認められない場合はM0、認められる場合はM1と2つに分類されます。
これら3つの指標から大腸がんのステージは0~IVまでの5段階に分類され、ステージが進むほど、大腸がんが進行しているということになります。
各ステージでのがんの状態と5年生存率は以下のとおりです2。
※カッコ内の数値は5年生存率
ステージ0の段階が早期大腸がん、ステージI~IVの段階が進行大腸がんに分類されます。
2大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版(大腸癌研究会・全国登録 2000~2004年症例)
関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授
関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医日本消化器病学会 消化器病専門医日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医・大腸肛門病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本臨床腫瘍学会 暫定指導医
世界も認める大腸がん腹腔鏡手術のニューリーダー
大腸がんの腹腔鏡手術を専門とする消化器外科医。
少年時代に受けた胸腔鏡手術の経験から医学の可能性を見出し、医師を志した。
患者さんへ最良の手術を提供することを信念に、腹腔鏡手術を中心に大腸がん治療を提供。
内視鏡手術の技術認定医であり、その技術力の高さは国際的にも定評がある。
これまで述べ1,500例を超える腹腔鏡手術を執刀。
横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター 外科 准教授を経て、2024年より関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授に就任。
渡邉 純 先生の所属医療機関
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