連載特集

広がる医療安全、初のプレセッションを開催――第21回医療の質・安全学会学術集会

公開日

2026年10月28日

更新日

2026年10月28日

更新履歴
閉じる

2026年10月28日

掲載しました。
73bcff1ff2

2026年11月7~8日にアクリエひめじ(兵庫県姫路市)で、第21回医療の質・安全学会学術集会が開催されます。今回の大会テーマは「経験の継承と科学的探求~さらなる高みを目指して~」、初心者向けの実践的な教育から国内外の演者を交えた議論まで、多様なプログラムが予定されています。会期前日の11月6日には、初のプレセッションも開催されます。医療安全の取り組みを今後どのように高めていくのか、大会長を務める滋慶医療科学大学大学院 医療管理学研究科 教授の水本みずもと 一弘かずひろ先生にお話を伺いました。

医療安全の裾野を拡大、初のプレセッションを開催

今回の学術集会では初の試みとして、2日間の本会期に先立ち、前日にプレセッションを開催することにしました。理由の1つは、医療安全で扱う領域が多岐にわたり、従来の2日間ではプログラムが収まりきらなくなってきたことです。また、過去の参加者から寄せられた「聞きたい企画の時間が重なって片方しか聞けない」「オンデマンド配信もあるができればリアルタイムで学びたい」といった声にお応えしたいと考えたためです。

プレセッションは、医療安全に携わり始めて間もない方や初学者にも有用な内容となっております。医療安全管理者の中には、前任者から十分な引き継ぎを受けられないまま業務に就き、情報を求めて学術集会に参加される方も多くいらっしゃいます。そこで、医療安全管理者が業務をどのように引き継ぐかを扱うセッションなどを設けました。現場ですぐに生かせる知識をまとめて学んでいただき、日々の業務につなげられる場にしたいと考えています。

「経験の継承」と「科学的探求」――実践と検証の両輪で

続く2日間の本会期は、「科学的探求」にあたる研究的な視点からの議論や、各演題の後に会場で討論が深まることを期待した構成にしています。

学術集会では、口頭発表やポスター発表として各地の医療機関による活動報告が行われます。参加者にとっては、他施設の取り組みを知り、明日からの業務に生かせる情報を持ち帰る場でもあります。現場で積み重ねてきた経験を共有し、次へと受け継ぐことが「経験の継承」です。

一方、経験や活動報告の共有のみでは学会の活動として十分ではありません。医療安全は、生命科学の1つの領域としてまだ十分に認知されていない部分もあると感じています。医療安全が生命科学の領域として発展していくためには、医療安全を「サイエンス(科学)」として捉える必要があります。現場の取り組みが本当に有用なのかを検証し新しい知見につなげていく、すなわち「科学的探求」も今回の学術集会では重視したいと考えています。

災害の経験と国内外の知見を次の医療安全へ

「経験の継承」を具体化するテーマの1つが、災害対応です。姫路市の清元 秀泰市長は医師でもあり、東北大学に在籍されていたときに東日本大震災を経験されています。今回は、災害への備えを含めた医療体制について、自治体のトップとしての取り組みを医師としての視点も交えてご紹介いただくとともに、多様な職員が働く組織のマネジメントについてもお話しいただく予定です。

さらに、今年に入って熊本や千葉など各地で発生した災害について、実際に対応にあたった医療従事者らから経験を共有していただく緊急プログラムも準備しています。実際の災害現場では何が起こるのか、そしてその状況へどのように対応したのかを共有し、今後に生かす機会にしたいと考えています。

一方、「科学的探求」を深める企画の1つが、海外の専門家を交えた議論です。米国や英国などでは、日本より早くから医療安全が重視されてきました。有害事象や医療事故を検証する手法や仕組みも進んでおり、そこから学ぶことは非常に重要だと考えています。今回は海外から4人の演者をお招きし、医療事故などの事例を振り返り、背景を分析するセッションを行います。そのうちおひとりは、まさにその分析手法である「ロンドンプロトコル」を取りまとめた先生ご本人です。今回のプログラムは、海外演者による単独講演ではなく、日本人の演者と共にパネルディスカッションやシンポジウムに参加していただくことにしました。国内外の知見を持ち寄り、会場も交えて議論することで理解を深めたいと考えています。言葉の壁に配慮して、事前に翻訳した資料や同時通訳も手配しています。

医療安全の担い手も多職種へ広がる

医療安全の広がりは、扱うテーマにとどまらず、それを担う人も多様になっています。医療現場では、医師の働き方改革などを背景に、医師の業務をほかの職種に移行したり分担したりする「タスクシフト・タスクシェア」や、多職種によるチーム医療が重視されています。こうした流れのなかで、医療安全においても多職種の連携は欠かせません。

私自身は麻酔科医として、手術室や集中治療室(ICU)でほかの診療科の医師や多くの職種のスタッフと一緒に仕事をしてきました。その後10年以上、特定機能病院の医療安全管理部門に携わってきましたが、安全管理に関わる職種も看護師や薬剤師、臨床工学技士などへ広がってきました。ただ、職種によって受けてきた教育内容が異なるため、現場で医療安全の課題に直面したときに認識のずれが生じることもあります。だからこそ、資格取得前の教育課程から現場で働くようになった後まで、多職種が共に学ぶ機会が重要です。本学会としても、そうした教育に貢献していきたいと考えています。

患者も医療安全を考える一員に

医療者と患者さんの関係も時代とともに変化してきました。かつては医療者側が中心となって治療方針を決める風潮がありましたが、患者さんが説明を受け理解したうえで治療などに同意する「インフォームド・コンセント」が重視されるようになりました。さらに近年では、患者さんと医療者が情報や希望を共有し、一緒に治療方針を考える「シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)」という考え方も広がっています。人手や時間の制約はありつつも、現場は少しずつ、確実に変わってきていると感じます。患者さんにも参画していただくことで、医療安全においても大きな役割を担っていただけるようになってきました。

本学会は2005年の設立当初から、医療者だけでなく、医学以外の研究者や患者団体の代表者、一般の市民の方も構成メンバーとして参加してきました。約20年前から多職種協働や患者参画を先取りし、日本の医療安全を牽引してきた学会として、これらの重要性が高まるなかで果たすべき役割はさらに大きくなると考えています。当初は学術集会にあわせて市民公開講座の開催を検討していましたが、おかげさまで多くの演題が集まり、会場確保の都合から今回は見送ることになりました。ただ、一般の方も参加登録(有料)をいただくことで学術集会に参加可能です。プログラムには一般の方の視点を取り入れた内容も多く、討論に加わることも可能です。機会があればぜひ参加をご検討ください。

初の姫路開催、見学ツアーや企業展示も

医療安全は、1つの職種だけで完結するものではありません。現場で積み重ねた経験を共有し、科学的に検証し、異なる職種や患者さんの視点を交えながら議論していく。今回の学術集会はそうした学びと対話の場にしたいと考えています。

本学会の学術集会はこれまで、東京や名古屋、横浜などの大都市で開催してきましたが、今回初めて姫路市で開催します。エクスカーション(見学ツアー)として、隣接する医療機関や生成AIを活用して患者誤認の防止に取り組む病院の見学も予定しています。企業展示も過去最大級の規模となる見込みで、最新の情報に触れていただけるはずです。ぜひ秋の姫路に足を運んでいただければ幸いです。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

特集の連載一覧